――同じ新興国でも地域によってきめ細かく見ていかなければならないということですが、そのときに大事なのはどのようなスタンスですか。

とくに重要なのは、現地に足を運んで、生活の裏の裏まで見ることです。現地の消費者と一緒に車に乗ってスーパーで買い物をして、家に帰って冷蔵庫の中身をつぶさに見せてもらい、一緒にご飯を作りながら調査をする。そこまでして初めて、新興国の消費者の生のインサイトがつかめるのです。

 BCGのコンサルタントはインド・中国をはじめとする新興国の一般家庭の冷蔵庫を一緒に開けて話を聞くほど消費者に密着して調査をしています。ユニ・チャームさんのような新興国で成功している日本企業も、現地の生活に徹底して入り込んでいる。あるグローバル消費財メーカーの経営陣は、世界中の新興国で経営会議を開くだけでなく、滞在期間の半分は市場に足を運ぶそうです。しかも、グロ-バル企業の役員という身分がわからないように変装するという念の入れようです。新興国市場への理解は、社長やトップマーケターだけに限らず、IT部門やサプライチェーンの責任者など、常日ごろ消費者に接しない人まで現地に触れることで高まるものだと考えているからです。

 現地を知れば、製品開発もおのずと変わります。たとえば、日本人がイメージする冷蔵庫は、容量が大きく、冷蔵庫と冷凍庫と野菜室を備えたものです。新興国のごく少数のトップエンドの消費者であれば同じ仕様でもよいかもしれませんが、田舎で暮らす貧しい消費者は高額で高機能な冷蔵庫には手が届きません。そこでインドのゴドレジ社は、田舎の消費者のインサイトを徹底的に調査、田舎の消費者は冷凍庫を使わないという事実を突き止めました。氷を作るには、きれいな水とエネルギーが要ります。余計なお金がかかる冷凍庫は、彼らには必要なかったのです。

 ゴドレジ社は、一般的な冷蔵庫に必要な200個の部品を20個ほどに減らし、価格を3分の2くらいに下げた製品を開発しました。この冷蔵庫は爆発的に売れ、現在でも売れ行きは好調だといいます。田舎の消費者のインサイトは「冷凍庫は使っていない」「電気代節約のために夜は冷蔵庫のコンセントを抜いている」といった消費者の行動を直接見なければわかりません。わからなければ、こうした商品の開発には決して結びつかないのです。