――インドでは「パイサ・バスール」という言葉が使われるそうですね。これから日本企業が新興国に進出するに当たって、この言葉がキーポイントになるのでしょうか。
新興国では先進国以上にブランドの価値が評価されますが、富裕層向けのプレミアムブランドをそのまま貧困層に提供しても、プライスポイントが合いません。企業としては、商品を小分けにすることで価格を下げるなどといった工夫が求められます。ユニリーバは、主力商品の「ポンズ」をインドネシアで展開する際、10グラム入りの小さいパッケージで販売しています。ただし、価格はローカルブランドより15パーセント高く設定しているのです。ブランドを変えずにパッケージを変えることで貧困層にも買いやすくしていますが、ローカルブランドと比較してプレミアムを取ることが鍵となります。そのメリハリをつけないと、ブランド価値を維持できないからです。
「paisa vasool(パイサ・バスール)」とは、お金に見合う価値という意味で、品質と価格のバランスが取れていると感じたときに使われます。これは単に、機能を間引いた廉価版をつくる、ということではありません。部品を200個から20個に減らす、パッケージを小さくするなどして安い価格で提供しても、価値と価格が見合っていなければ消費者にたちどころに見破られ、2度と買ってもらえません。この反応は万国共通ですが、新興国の消費者のほうが、お金に見合った価値に敏感です。先進国の消費者以上に厳しい目で見ていると思います。
インドの貧しい消費者は、日本で言うところの試供品のような小さなパッケージのブランド物のシャンプーを、3回くらいに分けて少しずつ使っています。1回で使い切らず大事に使うという消費者のインサイトに基づき、開封後も袋の口を閉められるパッケージに改良したところ、爆発的に売れたといいます。
マーケットの動向は、現地に足を運び、自分の手でデータを集めているからこそ正確に把握できる。それを製品やサービスに落とし込み、お金に見合った価値をきちんと提供できれば、マーケットの大きさを享受できるはずです。
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世界をリードする経営コンサルティングファームとして、政府・民間企業・非営利団体など、さまざまな業種・マーケットにおいて、カスタムメードのアプローチ、企業・市場に対する深い洞察、クライアントとの緊密な協働により、クライアントが持続的競争優位を築き、組織能力(ケイパビリティ)を高め、継続的に優れた業績をあげられるよう支援を行っている。1963年米国ボストンに創設、1966年に世界第2の拠点として東京に、2003年には名古屋に中部関西オフィスを設立。2013年12月現在、世界45カ国に81拠点を展開している。
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