世界最大規模の高級ブランドグループLVMH。「ブランド帝国」とも称される同社は、ウェブプロモーションにおいても新たなビジネスモデルを生み出すべく、試行錯誤を続けてきた。そこで満を持して登場したのが、ブランド名を冠さないデジタルマガジン「NOWNESS」。果たして、その狙いとは?

 

 作家・村上春樹氏のベストセラー『1Q84』の英語版が2011年にリリースされたとき、それを記念して「NOWNESS.com」という海外のサイトが、村上作品にインスパイアされたアート作品の募集を行ったことをご存知でしょうか。

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『1Q84』英語版の刊行を記念して、「NOWNESS」は村上春樹作品にインスパイアされたアート作品を募集。画像は世界中のアーティストから寄せられた作品群

 実はこのNOWNESS、海外ではかなり知られたデジタルマガジン。アートからライフスタイル、カルチャー、トラベル、著名なクリエイターによる写真やショートフィルムまで、ここでしか見られない独自のコンテンツをすべて無料で毎日配信しています。

 現代カルチャーに興味がある人には、デビット・リンチやスパイク・ジョーンズといった映画監督が作品を寄せ、デザイナーのカール・ラガーフェルドがショートフィルムを公開したといったら、その影響力が伝わるでしょう。

 海外でも熱烈なファンを持つ村上春樹氏だけに、アートやカルチャーに強い親和性を持つ読者が集まる同サイトでプロモーションを行うことは、自然な流れだったのです。

 しかし、NOWNESSはどうしてこれだけの豪華なメンバーやコンテンツをそろえているのか? それはサイトを立ち上げ、運営しているのが高級ブランドグループ「LVMH(モエ ヘネシー・ルイ・ヴィトン)」だからです。

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映画監督のスパイク・ジョーンズがNOWNESSに発表した短編ストップモーションアニメ「Mourir Auprès de Toi

 ローンチは2009年2月25日。それまでLVMHグループのECサイトとして運営していた「eLuxury」に代わる情報発信サイトとしてスタートしました。いわば、前回の連載で紹介したようなブランドのオウンドメディアの一種というわけです。

 しかし、ほかのオウンドメディアとは決定的に違う点がひとつ。NOWNESSはサイトのどこを探しても、「By LVMH」という文言がありません。ユーザーにとっては、LVMHが母体であることを意識する瞬間がないのです。