ダンヒルの「The HOME」というグローバルな取り組みも、こうした流れに位置づけられます。では、近年のラグジュアリーブランドの店舗展開に見られる「商品の販売スペースから、ブランド体験スペースへ」とでも言うべき変化は、どうして広まっているのでしょうか。
まずは、飲食だけでなく、バーバーにスパといった独自の展開を行っているダンヒルの意図を読み解くことで、その背景に迫ってみましょう。
バーバーにスパに、ホームシアター。“心地いい体験”がリピーターを生む

ロンドン本店にはホームスパもある。女性も利用可で、男性がゆっくり買い物をしている間に利用する人が多いとか(画像/dunhill)
1893年にイギリスで創業したダンヒルは、特定の製品に特化したブランドではなく、もともとライフスタイル提案型のブランドとしてスタートしました。普及したばかりの自動車の関連用品に始まり、レザーや香水、スーツなど、男性のライフスタイルにまつわるさまざまな商品ラインナップを展開してきたのです。
そのため、「The HOME」のような新しいかたちの店舗展開も、ライフスタイルブランドとしてのダンヒルのDNAが具現化したものでした。コミュニケーション・マネージャーの渡辺尚有氏は言います。
「ラグジュアリーブランドのショップ内にバーバーやスパが入っていると聞けば珍しく思うかもしれません。しかし、ダンヒルは『大人の男性のライフスタイルを支援するブランド』と捉えればどうでしょう。どちらもオーダーのスーツなどと同じように、紳士の身だしなみには欠かせないサービスです。商品だけでなく、こうした体験型のサービスも提供することで、ダンヒルが男性のラグジュアリーなライフスタイルを提案するブランドであることを、より深く感じてもらうことができるんです」

ロンドン本店はプライベートシアターも完備。12席を用意し、隣接するバーに注文することもできる(画像/dunhill)
ダンヒルには「TOYS FOR BOYS」というブランド哲学があります。創業者のアルフレッド・ダンヒルに由来する言葉で、大人の遊び心を大切にする精神が反映されています。
「そもそも、ダンヒルは“ロゴ”で商品を展開していくブランドではありません。商品でもサービスでも、あくまで大人の遊び心をくすぐることをブランドのコアに据えています。その意味では、お客さまにはまず店舗に通ってもらい、ダンヒルの世界観を好きになってもらうことが大切です。『HOME』という名前の通り、ラグジュアリーであってもエクスクルーシブ(選ばれた人向け)ではなく、誰でもリラックスして楽しめるサービスを提供しているのは、そんな理由があります」(渡辺氏)