実際、銀座店のバーバーは予約で埋まっている状況であり、ラウンジをデートの待ち合わせスポットとして利用する人もいるとか。ブランドを全面に押し出すのではなく、そうした日常のちょっと特別な体験の延長線上にダンヒルというブランドをさりげなく感じさせることは、昨今の生活者の感覚にもフィットしているようです。
今どきの生活者がブランドに求める価値は、いくつかのレイヤーに分かれています。ひとつは「ブランドを見せびらかしたい」という“ロゴで消費する”タイプ。もうひとつは、「高品質としてのブランド品」という“商品の使用価値”を求めるタイプです。
それに加え、成熟した社会では「自分にとって心地いいもの」という“情緒的な価値”を重視するタイプが増えています。ダンヒルの体験型サービスは、そうした個人的な心地よさをブランドに求める人々に魅力的に受け止められているのです。
「これはビジネスの実感としてあるのですが、お客さまの“心地よさ”に届けば、高い確率でリピートしていただけるようになります。店舗がサロンのようになり、ショッピング以外の目的で銀座を訪れたときにも、思わず立ち寄りたくなる空間として受け入れてもらっているのです」(渡辺氏)
その結果、ダンヒルの売り上げは成長を続けているといいます。商品のロゴや使用価値を訴求するだけでなく、バーバーやスパといった“心地いい体験”を提供することで、人々の感性に訴えかける――。そうすることで、ダンヒルは顧客と個人的な絆を結ぶことに成功しているのです。
ソーシャルメディア時代になって、リアルな体験の価値はむしろ上がった
ダンヒルのほかには、アルマーニが2007年11月とほぼ同時期に世界に先駆けて「アルマーニ/スパ」を銀座の旗艦店でオープンしました。
エステやスパのガイドでは、「たとえブランドとしてのジョルジオ・アルマーニを知らない人でも、スパが好きなら一度は行く価値あり!」と紹介されていたように、ブランドがサイドビジネスで行うレベルを超えた本格的なリラクゼーションスペースとなっていたのです。現在は終了していますが、スパ事業は同ブランドのホテルに引き継がれ、質の高いサービスを提供し続けています。