そして、ブランドの世界観を体験してもらうことは、顧客のロイヤリティ(忠誠度)を高めることにつながります。いわゆる、“お得意様”になるわけです。

ラグジュアリーな体験のキーワードは“遊び心”

 ラグジュアリーブランドが積極的に取り組む体験のデザインは、単純にプロダクトを販売する企業から、ブランドビジネスの現状が変わりつつあることも示しています。そこで提供されるのは、ブランドの世界観に触れることで手に入る「特別な時間」です。

 そうした変化の帰結として浮上してくるのは、滞在する時間をトータルでプロデュースできる「ホテル事業」への進出です。すでにアルマーニやブルガリといったブランドは各地にホテルを開業しており、日本でも展開が待ち望まれています。

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フランスのリゾート地にオープンしたシャネルの冬季限定のブティックでは、カール・ラガーフェルドのスケッチが描かれたゴンドラも登場した(画像/CHANEL)

 その詳細は次回にお届けするとして、今回は最後に、旗艦店のデザインとは異なる、シャネルの店舗展開における特別なブランド体験のあり方を紹介しましょう。

 シャネルは2009年より、フランスのアルプス山中に冬季限定のブティックをオープンしています。そこはウィンターリゾート地のクールシュヴェルで、ブティックに行くためには、特別仕様のゴンドラに乗って店舗まで移動することがお馴染みです。

 また、2012年夏にはローマ時代からリゾート地として知られるイタリアのカプリ島にも期間限定ブティックを開店。いずれも、店舗を訪れるためにわざわざリゾート地まで旅をする必要があるという遊び心が、究極のラグジュアリー体験として支持されています。

 ダンヒルやアルマーニに比べ、シャネルの活動はなかなかハードルが高いですが、ほかのラグジュアリーブランドとも“遊び心”というキーワードで共通しています。

 ここから見えてくるのは、ラグジュアリーブランドにおける体験のデザインは、ただ単に心地よいサービスを提供すればいいわけではないということ。隠れ家を作ったり、冬のリゾート地にブティックを出してみたりといった遊び心を真剣に追求するからこそ、贅沢な体験として、人々の感性を刺激するのです。