ハーバード・ビジネス・レビューでは、毎月、講師をお迎えして勉強会を開催している。著名な講師を囲み、少人数によるディスカッションを中心とした勉強会は、議論の濃さと活気で好評だ。今回はユニ・チャーム 代表取締役 社長執行役員の高原豪久氏を講師に迎え、「日本での成功パターンは世界で通用する」というテーマで、プレゼンテーションを行っていただいた。
【テーマ】日本での成功パターンは世界で通用する
【 講師 】高原 豪久氏(ユニ・チャーム 代表取締役 社長執行役員)
【 日時 】2014年2月3日(月) 19時~20時30分
【 場所 】d-labo コミュニケーションスペース(ミッドタウン・タワー7階)
DHBR勉強会について
ハーバード・ビジネス・レビュー(DHBR)では、毎月1度、講師をお迎えして勉強会を開催しています。この勉強会は、DHBR誌に寄稿いただいた方を講師としてお招きし、執筆テーマに沿ったプレゼンテーションの後、参加者の方々とディスカッションを行う形式をとっています。アットホームな会場、20名という少人数、隔たりのない講師の方との近さという贅沢な空間が、ほかにはない活発な議論を誘い、これまで参加いただいた方々からも好評をいただいております。また、参加者の年齢や職種も幅広い層にまたがっており、大変刺激的な会となっています。
コア・コンピタンスを武器に、最大市場でドミナント・シェアを取る
ユニ・チャームがグローバル展開を始めたのは決して早くはありませんでした。1970年代に台湾や香港向けの輸出を開始しましたが、本格化したのは94年の韓国、95年の中国進出以降です。グローバル展開が遅れた理由は、経営の多角化で余裕がなかったことにありました。

高原 豪久(たかはら・たかひさ)
1961年愛媛県生まれ。86年成城大学経済学部卒業後、三和銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。91年ユニ・チャーム入社。94年嬌聯工業股◆有限公司(台湾)副董事長 、96年購買本部長兼国際本部副本部長(台湾より帰任)、2000年に同社経営戦略担当などを経て、2001年より同社代表取締役社長執行役員。(◆はにんべんに分)
1961年の設立当初は立体駐車場の防火建材、63年に生理用品、81年には紙おむつと事業の柱は増えましたが、建材事業以外は、ユニ・チャームのコア・コンピタンスである「不織布と吸収体の加工・成形技術」を使用しています。創業事業である建材事業は2002年に撤退、その他にも、レジャー産業や幼児教育、結婚情報産業などコア・コンピタスである「不織布と吸収体の加工・成形技術」と関連のない事業も行っていましたが、全て撤退しました。これらの事業整理には大きな痛みも伴いましたが、「この失敗があったからこそ、その反省の下、選択と集中が何の迷いもなくできているのかもしれません」と高原氏は語りました。
グローバル展開する際の軸足は、アジア市場に定めました。アメリカ、ヨーロッパ、アジアの3極を考えた時、アジアでナンバーワン企業になれば、全世界でも3本の指に入れると考えたからです。また戦略の素早い実行には物理的距離も重要な因子となります。だからアジアに集中したのです。
ただ、市場は次々と顕在化してくるため、マーケットの成長以上のシェア成長が実現できなければ、そのポジションはどんどん低下してしまいます。特に個人を対象とした日用品販売においては、景気変動や天災、地政学的なリスクを吸収するためにも、いかに多くの消費者から支持を得るかがカギなので、大きな市場でドミナント・シェアを取ることが重要です。国内市場で言えば、子供用紙おむつ、生理用品、大人用紙おむつを始め、複数のカテゴリーでトップシェアを握っています。新興国市場でも多くの地域でトップシェアを取っていますが、未だ顕在化していない市場が多くあるので、安心はできません。同時多発的に顕在化するマーケットにおいては、いかに効率的に素早くサプライ・チェーンを構築するかが大きな課題です。
メガトレンドから10年先を見て、参入方式を決定する
「グローバル展開について試行錯誤した中から学んだのは2つのことでした」と高原氏は続けました。ひとつは10年先を読み、リスクとチャンスに応じて2つの型を使い分けることです。市場予測は1年先を予測するよりも、10年先を大づかみに予測する方が間違えにくいものです。右に行くと思っていたのに10年先には左に行っている、というケースはほとんどないと思います。技術の進化、人口動態のような統計データ、各国為政者の方針などを考慮すれば進むべき道を大きく読み間違うことは少ないはずです。メガトレンドを捉え、そこから未来の市場を予測するのです。そのときの着眼点は3つあります。1つ目は市場規模。対象人口が大きく、ポテンシャルの高い市場の方が当然いいわけです。2つ目はチャネルの発展状況。小売業の発展状況や消費者の購買行動に関わるものです。3つ目はグローバル企業や地場企業などのメーカー間の競争環境です。
この3点が現在どうなっているのかを把握してから未来の市場を予測し、状況に応じて「直接進出方式」と「ライセンス方式」のいずれかの型を選択するのです。未来の市場が大きく、チャネルが未発達で参入メーカーが多い新興国市場では、競争で勝ち残るチャンスも大きいため、生産から販売、回収まで手掛ける「直接進出方式」をとっています。日用品メーカーの場合、少数の人に大量に購入してもらうよりも、多数の人に少量購入してもらうようにすることが利益最大化のポイントです。成熟市場では市場機会がほぼ顕在化し、チャネルは大規模小売業の上位集中が進んでおり、メーカーが主導権を握ることは難しい状況です。またメーカー間の競争も終息して参入メーカーが絞られているため後発で参入する余地は少ないのです。このような場合には、「直接進出方式」よりも「ライセンス方式」の方が、ローリターンではあってもリスクは抑えられます。
ユニ・チャームは今年の前半にブラジルへ進出します。BRICsはマクロ環境が悪いと言われていますが、10年というスパンで見ればいい時もあれば悪い時もある、という見方ができます。試行錯誤するのであれば早い方が成功確率は高められるのです。先程ご紹介した三つの軸に照らして考えると、アフリカも非常に有望な市場だと見ていますし、中欧やロシアを含む東欧もこれから大きく成長するでしょう。