壁を乗り越えるための5つのポイント
もうひとつの重要な学びは、国境を越えて事業を行う上で注意すべき5つのポイントでした。
1つ目は「形」や「型」といったようにイメージを具体化することです。体験という抽象的なものを提供するサービス業と比較すると、製造業は具体的な商品を実際に見て触ってもらえるため、他社との違いをアピールしやすいというメリットがあります。商品にはローカライズした方がよい部分もありますが、最初から何をローカライズすべきかは分かりません。ですから、まずは日本のベストの商品を持って行くのが鉄則です。一方で壁を超えやすい分、模倣リスクという避けられない宿命もあります。そのため、模倣品を駆逐しつつ、新しい付加価値をもった商品を模倣されるより早く生み出し続けなければなりません。そのためには、自社のコア・コンピタンスを規定し、それを磨くための経営資源を注ぎ込み続けることが重要です。
2つ目は「不の解消」型の付加価値は評価を得やすいということです。生理用品や紙おむつには代替品という比較対象が存在します。代替品と比較して「不快」や「不便」、「不充足」を解消してくれる、違いがはっきり分かるものは高く評価されます。だからこそ日本のベストの商品を持って行くべきなのです。ただし、そうした商品がコモディティ化するとあっという間に価値が認められなくなってしまう点にも留意すべきです。
3つ目は日本での「勝ちパターン」の横展開が効果的だということです。先ほど述べたように、現地に適合した商品かどうかは最初から分かるものではありません。ましてホームですら経験のない戦略をアウェーでやって勝てるわけもありません。ですから最初は徹底的にホームでの得意技を現地に持ち込むべきです。そこから試行錯誤してローカライズする部分を峻別するのです。たとえば紙おむつの肌触りを定量的に計測する機械もありますが、五感というのは人によって異なりますので、実際の消費者の肌感覚とは違ってくるのです。ローカライズするには、五感を駆使して峻別しなければなりません。そのために、会社の主要なメンバーがマーケットインして、日常的あるいは定期的に消費者と生活を共にするプロセスを経なければ、そうした意思決定は下せません。
4つ目は社歴20年超の「エース人材」を「10年スパン」で現地に送り込むことです。現地の人たちをやる気にさせられなければ成功はおぼつきません。そのためには、「この日本人と仕事していると自分が成長できる」と思わせる必要があります。いくら優秀な人であっても、全人格で対応しなければ現地の人はやる気になってくれません。エース人材というのは、課題やチャンスを見つけたら全力で取り掛かる、真のオーナーシップを持っている人間です。そのようなエース人材でも赴任期間が短いと、やりたい仕事もできずに終わってしまうため、十分な時間をかけるべきでしょう。現地の人をやる気にさせ、エースが自分の目標を達成するためには一定以上の期間は必要です。その一方で国内の人材が枯渇する懸念もあります。しかしエース不在という状況にしてしまえば第2、第3のエースが本当のエースに育つものです。
5つ目は中途半端にならず、「閾値」を超えるまでやることです。よくある失敗というのは、もう一息のところができなかったケースがほとんどです。成功するまでやめてはいけません。同じことをコツコツ辛抱強くやり続けるのは非常に大変です。「凡事徹底が非凡を生む」と言いますが、これが成功の秘訣だと思います。
今回は日本で最もグローバル展開に成功しているユニ・チャームの高原様の話が聴ける機会とあって、会場には期待の大きさと喜びが満ち溢れていました。それに応えるかのように高原様も丁寧かつ具体的にお話しくださり、贅沢なひと時となりました。ご多忙のなかご登壇くださいました高原様、ならびにご参加いただいた皆様に深く御礼申し上げます。
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