ファイナンスの大家で、ダイヤモンド・オンラインの連載でもおなじみの真壁昭夫教授による入門書『行動経済学入門』の一部を紹介する連載、最終回。

 

意思決定の単純化をもたらす「ヒューリスティック」

「ヒューリスティック」とは、物事を直感的にざっくりととらえることである。この働きのおかげで、私たちは迅速かつ迷わずに意思決定を下すことができる。

◆直感の働きを理解しよう
 これまで述べてきた通り、私たちの意思決定は、合理的な判断という観点以前に、自分自身のコミットメントや心理状態、気質効果やコントロールへの欲求という極めて主体的な要因によって左右されることが多い。

 私たちの判断力は、将来を確実に的中させることができるほど完全なものではない。情報の把握の仕方も、個人によって大きく異なる。ただ、その把握の仕方は、大枠では共通している部分が多いと考えられている。その共通点とは、数ある情報を一つひとつ細かく調べて理解していくのではなく、物事の大枠をざっくりとつかんで行動に取り掛かるという点である。

 ここで重要になるのは、行動ファイナンスで「ヒューリスティック」と定義される認知様式だ(図1)。ヒューリスティックは、行動ファイナンスの理論の中でも中心的なコンセプトの一つである。ヒューリスティックとは「物事をざっくりと、直感的につかむ」ことを意味する。私たちの日常生活を振り返ってみても、ある事象を直感的にざっくりと把握することは多い。情報の選別はずいぶんざっくりと行われている。

 これも、例を挙げて考えてみよう。

「日本の半導体市況の先行きは明るいですか?」

 このような質問を受けたとき、読者ならどのように答えるだろうか。まずは、半導体産業の企業名をいくつも思い浮かべるだろう。たとえば東芝や富士通など、さまざまな企業名が思い浮かぶ。もしかしたら、いま挙げた日系企業と競合している海外メーカーの名前も脳裏をかすめるかもしれない。特に近年は韓国のLGやサムスン電子、台湾の半導体メーカーの存在感が世界的に高まっている。また、アメリカのIT産業などの動向もよくニュースになっている。シリコンバレーのITベンチャー企業の収益や今後の事業の展開などは、今後の世界の半導体市況にも影響を与える可能性がある。さらに、インドのIT産業の事業展開の動向も、今後の半導体市況の先行きに影響を与える可能性は無視できない。