すでに頭の中にある情報を用いてアクションを起こす際でも、直感的に対象の概要をとらえて、それに合致する内容の情報を当てはめているはずだ。
このように物事のエッセンスをつかんで、反射的に行動を起こすことは、地震の際の身の隠し方などにも現れる。グラグラと建物が揺れる中で身の隠し場所を探す場合、とっさに机の下にもぐることが多いだろう。
意思決定のために与えられた時間が短ければ短いほど、あるいはいち早く判断しなければ周囲に遅れてしまう、といった状況になるほど、私たちは直感的に判断を下して意思決定を行っているものだ。
必要な情報までも切り捨ててしまうなんて!――単純化
複雑な情報であっても、ざっくりつかむことで意思決定を促進してくれる働きが「単純化」だ。だが、リスクの見落としなど、負の側面も持っていることに注意すべきである。
「単純化」とは、ヒューリスティックの中でも典型的な情報処理の手法だ。複雑な情報をざっくりとつかむことによって、私たちは複雑さ、すなわち理解しにくいという問題を克服できる。そのため、情報を理解する際に感じるストレスを軽減することが可能だ。
私たちは、ありとあらゆる数字に囲まれて日々の生活を行っている。たとえば金額の大きい場合は「○○億円」と桁を切り上げてしまうことや、小数点以下に関しても小数第2位で四捨五入を行うことなど、把握しやすいように数字を整理する。これは単純化のよい例だ。四捨五入くらいであれば、事後的に深刻な問題を起こす可能性は極めて低い。
しかし、時として判断や意思決定の材料を単純化しすぎると、そのせいで適切な意思決定ができなくなる状態に陥ることもある。例として、あるプロ野球の球団が来期の補強のために若くて打率のよいバッターを探しているとしよう。

表1
チームの編成部はA、B、Cの3選手に目星をつけ、できるだけ若くて、打率のよい選手の獲得に乗り出した(表1)。年齢の観点から評価を行えば、A選手が21歳と最も若く有望である。一方、昨年の打率をもとに評価すると、C選手の打率が3割5分1厘ともっともよい打率となっている。しかし、C選手の年齢は3選手の中で最も高い。つまり、年齢の観点から3選手を評価すれば「A>B>C」となる一方で、打率の観点から評価すると「C>B>A」となってしまい、どちらの評価ポイントを重視するのかによっては、どの選手を獲得すればよいのかわからなくなってしまう。
このような例は、投資の現場でも見られる。リスク回避的な投資家は、極力リスクを抑えてリターンを獲得したいと思っている。ところが、バブルの発生など投資家自身のリファレンス・ポイントが動く環境になると、リスクに対する認識が変化し始める。当初は国内の株式だけに投資しようと思っていたのに、周囲の強気な見方に影響され、より高いリターンを狙える新興国の株式への投資が魅力的に思えてしまう、というケースはよくある。この場合、当初の方針通りリスクを抑えるのであれば、国内の株式を選択すべきであるが、同時にリターン追求のインセンティブも大きくなっているために、リスクの高い新興国への投資も捨てがたい選択肢となっているのだ。