●リーダーの真正性と保管責任
 2人の経営幹部と私の会話は、リーダーの「真正性」(authenticity)という昨今議論を呼んでいるトピックにも及んだ(訳注:「オーセンティック・リーダーシップ」にはいくつかの要件があるが、本記事では「自分らしさを貫く」という側面に焦点を当てている)。この概念を提唱する人たちの多くは、狭義のリーダー像に囚われることや他のリーダーのスタイルを真似することを戒め、自分自身の人間性に忠実なリーダーシップを発揮することを推奨する。そのリーダーシップが真正であるとみなされ、自分自身をそのまま職場でもさらけ出せるリーダーだけが、皆の信頼を勝ち取り協力を引き出せるという。より本質的なリーダーシップを重視するこの考え方は、「リーダーの権力は肩書きや組織内の地位によって獲得される」という旧来の前提に対する反動であるように思われる。それは、自分の信念を曲げることを頑なに拒否し続けて世界一のブランドを築いたスティーブ・ジョブズへの賞賛とも確かに重なり合うものではある。

 しかし同時に、ビジネス環境の複雑化は新たな課題も突きつける。世にあふれる混沌に直面しながら働く従業員にとって、特異なリーダーに率いられることは――いかにその人物が「真正」であろうとも――混乱を生み迷惑となる。特に、創業者でないリーダーの場合、その人物は「管理人」の役割を受け継ぐ。つまり、歴代のリーダーたちが築いてきた価値を増やし、未来の従業員や株主たちへと引き継ぐことを委任されているのだ。したがって、真正のリーダーになることは大事だが、皆がついていくのに苦労するような型破りのスタイルをとってはいけない。ただでさえ現実世界は複雑なのだ。これ以上、考慮すべき“変数”を増やすべきではない。

●経営陣の多様性と連携が強みとなる
 ここで、過去10年ほどの間にBP、RBS、そしてノキアがそれぞれ陥った不振についてふたたび考えてみよう。業績悪化の理由はそれぞれ異なるものの、共通する要因を見つけることもできる。これら3社の経営陣は、多様性と密接な連携を欠いていた。RBSのCEOフレッド・グッドウィンは、他の経営陣から孤立しており、相手の言うことに耳を貸さず、きわめて身勝手な行動を取っていた。ノキアでは、長年にわたり経営陣の同質性がきわめて高かった(フィンランド出身の男性で、ヘルシンキで教育を受け、ソフトウェア技術者)。アジアでの急速な市場拡大や、シリコンバレーで新たに生まれる技術やデザインに、彼らが対応できる可能性はどの程度あっただろうか。BPについては、アメリカで買収した事業をうまく統合できず、アメリカ側の経営陣とも協力関係を築けなかったことが知られている。これが世界共通の安全基準を導入するうえで問題となった。

 経営陣が、さまざまな視点で現実を理解できるだけの多様なメンバーで構成されているかどうか。そして、プレッシャーの下で一致団結するための十分な協力意識を持っているかどうか。ビジネス環境がますます大きな変化や危機にさらされるなか、これらがかつてないほど重要になっているのだ。


HBR.ORG原文:Leading in Complex Times October 21, 2013

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リンダ・グラットン(Lynda Gratton)
ロンドン・ビジネス・スクール教授。実践的経営論を担当。近著に『ワーク・シフト』(プレジデント社)がある。