居酒屋モデル

「日本の居酒屋とかバーとかね、イタリアであればバール。私はあまりバーには行かないんだけど、行くとママさんがいて、マスターがいて、そしてお客さんがいて。それである面でカウンターの向こうとカウンターのこっちが、いつの間にかある程度垣根が取れている」

小栁 祐輔
(こやなぎ・ゆうすけ)

博報堂コンサルティング
東京大学経済学部卒業。同大大学院経済学研究科修了。(修士論文指導教官:岩井克人教授) 大学院修了後、Credit Suisse証券投資銀行部門入社。その後、PEファンドにて、投資先企業の取締役としてバリューアップ業務に従事。米系戦略コンサルティングファームMonitor Groupを経て現職。

 私は初め、先生が突然仰った「居酒屋」という単語に少なからず驚いた。カントの先に居酒屋が現れるとは。

「日本の居酒屋のような、ある意味でお客さんが店のコンテクストづくりに積極的に関わるというような、そういうお客さんをインボルブする仕組み。昔からある商売のやり方だけれど、売り手と買い手がどこかで共同のコンテクストを共有するような仕組み、それをうまく作れるかどうかというのが、かなり重要になっているのではないか」

 ここで先生が念頭に置かれたのは、『会社はこれからどうなるのか』の「組織特殊的人的資産」である(注4)。コンテクストにも「組織特殊的人的資産」にも共通するのは、その資産が、売り手と買い手のどちらの所有物でもないという点にある。つまり、どちらかが消えれば、共有した価値も消えてしまうものである。

 コンテクストとは、con-textureであり、語源をたどればto weave togetherである。売り手と買い手、互いの自伝が経緯の糸となり、織物のようにどちらの所有物でもない「共通の記憶」を作り出す。それがコンテクストである。

 それを作り出す仕組みに企業が注力することは、自分の所有物ではないものに投資をする面を持ち、「資本主義的でないもの」を標榜することになる。そこに「利」のみを求めない会社の顔が現れ、信頼が生まれる。客はその会社との交換を望むようになる。グーグルの逆説がここでも強められるのである。