アイデア出しにおける批判の影響は、チームの解散後も続いた。実験後に各参加者へのフォローアップ・インタビューを行い、他に交通渋滞対策のアイデアを考えついたかと尋ねた。すると、対照群とブレーンストーミングのチームのメンバーはアイデアを1つか2つ挙げたが、討論チームのメンバーは平均して1人7つ挙げた。

 アイデア出しのプロセスで対立を取り入れたチームは、結束力を重視したチームよりも一貫して成績がよかった。調査結果のまとめには、こう書かれている。「討論と批判はアイデアを妨げるものではなく、むしろそれ以外の条件に比べアイデアを刺激していたことがわかった」。批判や意見の相違によって、より多くのアイデアが生み出され、その量が質の高い意思決定につながりうるということだ。

 批判や意見の相違が意思決定の質を向上させるという可能性に気づいたのは、スローンが初めてではない。ある組織は、それを何世紀もの間実践している――カトリック教会だ。ローマ教皇シクストゥス5世が治めた1587年以降、カトリック教会は聖人を認可する際、反対者を1人任命し、候補者が列聖にふさわしくない理由を見つけ発表させていた。この役割は「信仰の擁護者」とか、もっと一般的には「悪魔の代弁者」(Devil's Advocate:転じて後世では「わざと反対する人」の意味)と呼ばれていた。反対意見を検討する場を設けることによって新たな視点が生まれ、意思決定が強化されたのだ。

 1857~1983年にかけては悪魔の代弁者(列聖調査審問検事)が廃止されていたが、この期間に列聖したのは98人。対して1983年から今日までには、500人以上に聖人の称号が与えられた。改革の前と後における意思決定の質を比較するのは難しいが、この制度が教会の意思決定プロセスに与える影響の大きさは明らかだ。

 悪い知らせを届ける役割を1人だけに負わせる、というやり方はあなたのチームに合わないだろうか。ならば、まったく違うが名の知れた組織、ピクサーで使われているテクニックを検討してはどうだろう。大ヒット映画を生み出すまでの長いプロセスのなかで、ピクサーの制作チームは、仕事の質を強化する方法として批判を利用している。批判をネガティブなものにしないためのピクサー流のアイデアが「プラッシング」(plussing)だ。

 プラッシングとは、他者の仕事についてコメントする時には、仕事の向上につながる「プラス」の言葉を含めなければならないというルールである。プラッシングは監督やアニメーターに、単なる批判を超えて、仕事を向上させるために必要な土台を提供している。同社はプラッシングを通じて、批判を建設的に保ちよりよい作品づくりにつなげる方程式を手に入れたのだ。

 悪魔の代弁者のような何世紀も前からの手法に頼るのもよいし、プラッシングのような新しい方法でも、誰かが反対意見を投げかけるまで会議を延期するのでもいい。いずれにせよ、少しの建設的な対立を取り入れるだけで、チームの意思決定能力は向上するはずだ。


HBR.ORG原文:How Criticism Creates Innovative Teams July 22, 2013

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デイビッド・バーカス(David Burkus)
オーラル・ロバーツ大学の助教授。経営学を担当。リーダーシップ、イノベーション、戦略のアイデアをシェアするLDRLB(リーダーラボ)の創設者。著書にThe Myths of Creativityがある。