佐藤可士和氏をはじめトップ・クリエイターがデザインのみならず、経営者から全面的な信頼を得ているのはなぜか。広告会社でコンサルタントを務める筆者が分析する。日本広告業協会の懸賞論文で金賞に選ばれた論文を編集し掲載。
経営者は何に悩んでいるのか

国際基督教大学卒業後、2004年、株式会社博報堂入社。クライアントの広報活動を支援するPR 戦略局を経て、2010年に、企業ビジョンやブランド、商品開発の支援を行うコンサルティング局に異動。多数の企業コンサルティングに関わる。2013年、日本広告業協会(JAAA)懸賞論文金賞受賞。著書に『実行したくてたまらない目標をつくる』(共著・日本経済新聞出版社)、『買わせる発想 相手の心を動かす3つの習慣』(講談社)。
私は現在、広告会社のコンサルタント職として、日々さまざまな企業の経営層と直接討議する機会が多いが、経営者たちが今、広告会社のクリエイティビティにとても期待していることを肌で感じている。激しい競争社会を生き延びるためのヒントがクリエイティビティにあると感じている経営者は、意外に多い。実際、ユニクロやソフトバンクなど大手企業のトップが広告クリエイターに、直接仕事を依頼するケースも増えている。広告表現だけでなく、事業そのものの議論を直接交わしながら、広告を超えた領域で成果を上げている事例が次々と生まれている。
では、なぜ経営者は、広告のクリエイターと事業に関する相談をしたがるのか。ここでは、私の経営者と接してきた経験もふまえて、経営者が期待する広告会社のクリエイティビティとは何かを追求することで、クリエイティビティの力の一端を明らかにしていきたい。
まずは、経営者がクリエイティビティに期待することを考える前に、そもそも経営者が何に悩んでいるかを考えていきたい。
私は、社外の経営者の方々と共に、定期的に「社長道場」という名の勉強会を開催している。研修は毎回、1人の経営者のインタビューから始まる。その日は、とある寿司チェーンの4代目A社長がインタビュー対象者だった。全国で展開する寿司チェーンを営むA社長が、自社の現状や課題について、ざっくばらんに打ち明ける。曰く、職人がいる寿司屋ということでプライドを持って全国展開し、全店黒字化・無借金経営を達成、経営は安定している。ただし、回転寿司の拡大や、女性の寿司離れに将来的な課題を感じている。そして最大の課題は人材育成である、といった具合だ。インタビューを聞く他のメンバーの目は、真剣そのものだ。なぜなら、この短いインタビュー後に、各自30分で事業成長のための提案資料を作り、5分で発表しなくてはならないからだ。