佐藤可士和がクリエイティブで最も大切にしていること

 ソフトバンクがボーダフォンから携帯電話事業を買収した際にブランディングの業務を請け負ったのが、クリエイティブディレクターの大貫卓也氏である。大貫氏の最初の仕事は、ソフトバンクグループの新たなブランドロゴマークの策定。このプロジェクトには、ソフトバンクの孫正義社長自身が参加し、ソフトバンクの今後の事業について、大貫氏に直接熱く語ったという。
「結局、ソフトバンクの魅力って孫さんそのもの。孫正義自身がビジョンそのものなんです。だから、それを表現するしかないと。(中略)この形は『イコール』を示している。つまり、『答えを出す』という行為の象徴。(中略)孫正義そのものが、この『イコール』に全部表現されているんです」(山下和彦,関田理恵,『ヒット商品のデザイン戦略を解剖する』,ピエ・ブックス,2008年)
 この提案に対し、孫社長も「『一流の方の提案の力というのが、ここまでのものだとは思わなかった』と最大級の賛辞」(同著)を送り、担当役員だった栗坂達郎氏も、「大貫さんたちが考えて下さったブランディング、それは形ではなく精神みたいなものだと捉えています。要は、『志』の部分も含めて作っていただいた」(同著)と評価している。
 大貫氏にとってみれば、ソフトバンクの魅力や志を考えることは、CIや広告表現という答えにたどり着くために一つの通過点だったかもしれない。あるいはプレゼンテーションの話法かもしれない。しかし、大貫氏のその着眼点が結果として、経営者が常に悩み続けている「自社の事業価値とは何か」という問いに正面から答えており、それに対して経営者が感銘を受けているのが、非常に興味深い。

 もうひとつ、クリエイターがデザインに留まらずに、事業の価値に踏み込んだ例を取り上げたい。今治タオルのブランディングの仕事を振り返る佐藤可士和氏は、デザインではないところで、クリエイティビティを一番発揮した、と語る。それは、佐藤氏が初めて今治を訪れて、クライアントである四国タオル工業組合・藤高豊文理事長(当時)と話を交わした瞬間だと言う。
「藤高さんは雑談とおっしゃっていましたが(笑)、あれは私にとっては『問診』なんです。様々な質問を重ねて、クライアントの本当の姿を引き出して行く。そこが、私がクリエイティブティをいちばん発揮しなければならないところだと思っています」(同著)
 その『問診』に感銘を受けた藤高氏は、ブランドマークだけでなく総合プロデュースを引き受けてくれないかと佐藤氏に打診する。すると、佐藤氏が「私はマークを作るために来たわけではない。今治タオルを復興させるために参加しているのだから、そこまでやるのは当然です」と答え、さらに藤高氏を感動させたという。結果、佐藤氏の仕事は、ブランドマークに留まらず、商品開発にまで及んだ。佐藤氏が考案した手触りや吸収性抜群の「白いタオル」が伊勢丹等で人気を博し、今治タオルの売り上げは飛躍的に伸びたという。
「外から付加するのではなく、内にある本質を磨いて出すことが、本当のブランディングなのだと。それに気がつかされたことが、今治タオルプロジェクトの大きな意義のひとつだったと私は感じています」(同著)と藤高氏が語る一方で、「自分のことは俯瞰して見られないもの。だから私のような外部の人間が、最終的な絵を描きながら客観的に見て導いて差し上げる。それがクリエイティブディレクターの仕事なのだと思っています」(同著)と佐藤氏が応じている様に、「問診」を通じて今治タオルの本質的な価値を明らかにした佐藤氏のクリエイティビティこそが、藤高氏にとって価値であったことが分かる。