他者への関心が自分の役割を認識させる

「コミュニティは、アイデンティティを確立するうえでも欠かせません」と鈴木氏。私たちは同じコミュニティに属する人間を見て、自分とは一体何者なのかという問いを発しています。そして他者への関心を持つことで、自分の社会的な役割を認識できるのです。換言すれば、他者に対する社会的関心を持たなければ、自分らしさを見つけ出すこともできないのではないでしょうか。
 関わり合うことで他者に対する責任を自覚し、そこから仲間意識や互恵性が生まれ、仲間がいる安心からチャレンジできる環境がつくられるのです。この繰り返しが最初に挙げた3つの行動(支援・勤勉・創意工夫)を促し、組織に成長をもたらすのです。

 コミュニティが有効に働くためには、開放的であることも必要です。同じ価値観でまとまった閉鎖的なコミュニティでは、かえって関わり合いが生まれにくくなってしまいます。既存の規範や秩序に縛られ過ぎると、監視社会のようなルールの押しつけが発生し、創意工夫は避けられるでしょう。あるいは、仲がいいがゆえに依存や甘えが出てきて、勤勉行動が失われることも考えられます。それでは、どのように関わり合いをマネジメントすればよいのでしょうか。

関わり合いは、認知と構造設計がカギである

 鈴木氏は、関わり合いが生まれるような構造をつくることが重要だ、と述べられました。ここでいう関わり合いとは、単純なコミュニケーションのことではなく、仕事の設計上で接点を持つことを指しています。構造を重要視する理由は2つ。1つは設計であるがゆえにマネジメントができること。もう1つは結果的に実際の行動や価値観の共有を生みやすいということです。
職場における仕事の関わり合いを相互依存性と呼びますが、仕事はひとりきりで成立するものではありません。自分の仕事が誰に対して影響を及ぼし、また誰の仕事が自分に影響を与えているかを認識することが大切です。関わり合いを生み出す構造をつくることと同じく、関わり合いを認知することも大事なのです。

 たとえばアメーバ経営で有名な京セラは、アメーバという単位での収支が見える化されているため、どのアメーバが自分のところに利益をもたらすかが一目瞭然です。そうなれば自然と、助け合いが生まれるようになるのです。
 しかしながら、アメーバ経営は関わり合いを生むことを主目的とはしていません。鈴木氏は「なぜそうなのかははっきりしない」と前置きしたうえで、「論考 でも取り上げたタマノイ酢もそうですが、実は『関わり合いを生むこと』を目的としてつくられた仕組みよりも、異なる目的をもった仕組みの方が、より自然な関わり合いを生み出している」と語られました。この自然と生まれる関わり合いによって、内発的な支援行動や創意工夫行動が生まれるのです。

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 参加者からの質問にも、鈴木氏はひとつひとつ丁寧に回答されました。「相互依存性を認識するためには、規範や文化をつくることよりも、言わずとも実感できる仕組みをつくることからスタートした方がいい」という実践的な助言や、マネジャーの資質に左右されるのではないか、という問いかけに対しては「リーダーシップという個人の問題ではなく、どのようなマネジメントをするか、という方法の問題である。マネジャーの仕事は、人に役割を与えることと、それが機能するように設計することだ」と指摘されました。
 もちろん、すべての職場に関わり合うことが求められるわけではない、とも語られました。関わり合う職場をつくろうとする前に、公共哲学の立場に立って、「良き社会とは何か」という問いをみずからに投げかけ、その実現のためにはどういう働き方が会社にとって良いのかを考えることから始めることが重要だ、と結ばれました。
 会終了後には懇親会も開かれ、テーブルを囲みながら話に花を咲かせました。多様な業界の方が互いの意見を率直に交換し、刺激を与え合えるのも、勉強会の醍醐味のひとつとなっています。今後も多くの方にご参加いただきたいと思います。

 遠方よりお越しいただき、ご登壇くださいました鈴木先生、ならびにご参加いただいた皆様に深く御礼申し上げます。