経営トップのコミットメント
なしに人材は育たず

  人の課題を解決することは、経営課題を解決することと何ら変わりない。どんなに優れた経営戦略を策定しても、それを実行し、検証し、軌道修正し、最終成果へと結実させるのは人である。

 経営トップは、戦略を実行に移す上で、「適切な人材が、適切なときに、適切な職務に配置されている状態」を強固に堅持しなくてはならない。これは経営トップの仕事の最優先事項の一つと言っても言い過ぎではないだろう。

 にもかかわらず、多くの経営者は人材戦略を人事部門に任せきりにしていないだろうか。

 細かな実務を人事部門に委譲したり、日々の人材育成を現場に主導させたりすること自体は悪いことではない。

 だが、最終的な責任感と当事者意識を経営トップが持たなければ、人に関する諸問題を人事部門に押し付けているのと変わりない。そうだとすれば、抜本的な意識変革が急務である。経営トップの真のコミットメントなしに人材は育たないのだ。

 たとえば、私の知っているある企業で、こんなことが起こった。

失敗原因は経営戦略と
人材戦略の非整合

 その大手企業は、ビジネスを多角化しようと新規分野に参入した。それまで培ってきた専門性とブランド力で、同社はその新しいマーケットでもすぐに成長基盤を築けるものと確信していたらしい。

 だが、ふたを開けてみれば、実際にはそう簡単にことは運ばなかった。原因は、経営者が提携先の人材にマーケット開拓を任せておけば十分と考え、そのマーケットに精通した人材の確保や育成を怠った点にあったのだ。

 自社の強みと新分野の両方に習熟した人材が自社内に存在しなければ、自社の強みを発揮することも、マーケットニーズに応えることもできず、ゆめゆめ成功には至らない。これは、経営戦略と人材戦略が整合していない典型的例だといえるだろう。

 経営戦略と人材戦略を整合させるには、次の手順を推奨したい。

   (1)経営環境を精査して理解を深める
    ↓
(2)経営戦略の実現に必要な人材像を特定する
    ↓
(3)人材戦略を策定する
    ↓
(4)プロセスを設計する


 中でも重要なのが(2)の「人材像の特定」であり、経営トップは、組織に従来との違いを生み出す重要な職域はどこか、その職域に配置すべき有能なタレントは誰かを十分に把握しておきたい。

 加えて、有能な人材にはファスト・トラック(Fast Track)を意識的に用意すべきだ。いわゆる“エリートコース”を設定するのである。