有能な人材にはトップ
ダウンで“特別扱い”を
経営トップが特定の人材を“特別扱い”することは、全社員を対等に扱いたがる日本企業の風土に合わないと考える向きも多いと思う。
しかし、行き過ぎた平等主義は競争の欠如や伸び盛りの人材の意欲を奪うといった害悪をもたらすのだ。スマート・グロース・リーダーとなるポテンシャルを持ち、かつ、それを望む人材は“特別扱い”することで、その能力を大いに開花させるべきである。
私が人材戦略・育成の現場にいたときは、年に数回、CEOや経営トップ層と一緒に、タレント・レビューを行っていた。これは定期的にビジネスを振り返るのと同じく、人材の振り返りを実施するというものだ。
今、どのポジションが戦略的に重要度が高く、どんな人材が求められており、その役割を担うのにふさわしいのは誰か、などについて話し合う。必要とあれば、エグゼクティブ層であっても、職種や組織を横断した異動を実施した。
たとえば、ある事業部門のトップは、常に大変高い業績を挙げていた反面、傲慢で自信過剰な面があり、周囲の人たちとの軋轢が絶えなかった。そこで、私はこの人物を敢えて彼の専門と最も遠い現場に異動させた。案の定、本人はこれを左遷と受け止め、会社を辞めると言い出した。
私は彼と話し合いを重ね、とうとうと意図を訴えた。「これは、あなに謙虚さを取り戻してもらうための会社としての決断である」と。結果、彼は私の言うことを聞き入れ、周囲のメンバーを尊重し、異動先の職務でも高いパフォーマンスを挙げるようになった。きちんとした人材戦略に基づいた異動は、個人を伸ばし、組織を活性化させるのだ。
次回は、組織内で人材育成を行う上で欠かせない「コンピテンシー」について、考えて行きたいと思う。
(第2回 了)
■トム・ペダーセン Tom Pedersen
コーン・フェリー
リーダーシップ&タレント・コンサルティング シニア・パートナー

アメリカ・カリフォルニア州出身。新生銀行のCLO(チーフ・ラーニング・オフィサー)、シンガポールDBS銀行のラーニング&タレント・ディベロップメントのヘッドとして、人材戦略の立案やヒューマンリソース実務を主導。慶應義塾大学で教鞭を執った経験も有する。2013年より現職。
コーン・フェリー Korn Ferry
世界40ヵ国、80を超える主要都市に展開する、世界最大級規模の人材コンサルティング会社。1969年にアメリカで創業、エグゼクティブ・リクルーティングのトップ企業に。近年は、有能なリーダーを育成することで人材や組織の課題を解決し、企業目標達成を支援するリーダーシップ&タレント・コンサルティング分野へと業容を拡大。日本においても40年以上の実績を持つ。www.kornferry.jp