●献身的なパートナーがいる
 ジークムント・フロイト(オーストリアの精神科医)の妻マーサは、夫の服を揃え、ハンカチを選び、歯ブラシに歯磨き粉までつけてくれた。ガートルード・スタイン(アメリカの女流作家)には、同性の恋人で秘書のアリス・B・トクラスがいた。スタインは屋外で岩と牛を眺めながら執筆するのを好んだ。そのためフランスの田舎を旅行した時、彼女が座る場所を決めると、トクラスは数頭の牛を促してスタインの目線に入る場所に移動させたという。グスタフ・マーラーの妻は、夫が作曲をしている間、近所の犬を飼い主たちが吠えさせないようにオペラのチケットを掴ませた――将来有望な音楽家としてのキャリアを諦めるよう夫に強要され、ひどく落胆したにもかかわらずだ。未婚の芸術家たちも周囲の助けを借りていた。たとえばジェイン・オースティンの姉カサンドラは、妹が執筆に専念できるよう家事を一手に引き受けた。「羊肉やルバーブのことを考えていたら、執筆できそうにありません」とジェインは書いている。アンディ・ウォーホル(アメリカのポップ・アーティスト)は、友人で共作者のパット・ハケットに毎朝電話をかけ、前日の出来事を詳述した。彼らが「日記をつける」と呼んだその習慣は、2時間に及ぶ時もあった。1976年からウォーホルが亡くなった1987年まで、ハケットは平日の朝は毎日真面目にメモを取り、それをタイプし続けたのだ。

●人づきあいを制限する
 シモーヌ・ド・ボーボワール(フランスの女流哲学者)の恋人の1人はこう語った。「パーティーも接待も、ブルジョワ的なことは何ひとつしない整然とした生活でした。仕事に集中できるよう、彼女は簡素な生活を送ろうとしたのです」。マルセル・プルースト(フランスの文豪)は1910年に社交界から身を引こうと決心した。パブロ・ピカソと恋人のフェルナンド・オリビエは、スタインとトクラスの「日曜日は家で過ごす日」という考え方を踏襲した。週に1度は友達付き合いをしない午後をつくるためだ。

 人付き合いを制限する、というこの最後の習慣に私個人はあまり惹かれなかったが、その他のものについては、不思議と説得力があるように思える。とはいえ、これらは極端すぎて、実践は難しいかもしれない。一般的には、自分のスケジュールすら自分の思い通りに決められないものだ。そこで最後に、「他者の日課に合わせる」という制約の中で最高の成果を挙げた人々を紹介したい。フランシーヌ・プローズ(アメリカの女流作家)は、スクールバスが子どもを迎えに来ると執筆を始め、子どもが帰って来ると終わりにした。T・S・エリオット(イギリスの詩人)は飢えた詩人になるより、銀行員をしながら作詩をするほうが楽だと考えた。F・スコット・フィッツジェラルド(アメリカの文豪)も、若き陸軍将校としての忙しい日々の合間を縫って初期の作品を執筆した。この時期については、後にパリで酒浸りの生活を送った時代ほどは知られていないが、はるかに生産的で、肝臓にも優しかったに違いない。他者の日課に生活を合わせるのは大変なことかもしれないが、かえって道を外さずに済むこともあるのだ。

 そう、毎日たどる「道」こそが、日課というものなのだ。それが自分でつくり上げた道であれ、何らかの制約によってつくられたものであれ、大切なのは歩き続けることだろう。


HBR.ORG原文:The Daily Routines of Geniuses March 19, 2014

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サラ・グリーン(Sarah Green)
『ハーバード・ビジネス・レビュー』のシニア・アソシエート・エディター。