誰でもできる「本質を捉える」方法

 この本質を捉える力である「本質観取」は、センスのある人だけができるものだと思われがちだ。もしくは、たまたまよいアドバイザー(メンター)に巡り会った人だけが実現できたり、試行錯誤の結果たまたま得られたりするものだと考え、体系的に実施できないと思う人は多いのではないだろうか。

 しかし、「できない」ということは、たいていの場合「方法がない」ということであり、逆にいえば、誰でもやり方さえ分かれば、本質を捉えられるようになる。本質を捉えるには、瞑想、メンターからの助言、専門書の分析、質的研究といったいくつかの方法があるが、今回はディスカッションを通して本質を明晰にしていく「本質観取ゲーム」を紹介する。

 まず、ここでいう「本質」とは「物事の最も重要なポイントのこと」「キーワード」を指す。そのためこれは「真理」といった絶対的なものではない。「真理」だと思っていると、いくつかの案が出たときに真理を巡る不毛な対立が生まれるので注意が必要である。本質とは「なるほど、これはうまくこの事柄の重要なポイントを表現できている」と深く納得してしまうような「言い当て」なのである。言い換えれば、「組織」「経営」「戦略」「マーケティング」「論理」、何でもよいのだが、日頃使っている重要な“コトバ”が指し示す経験の意味を明らかにするという作業でもある。

 では、コトバとは何だろうか。我々は通常コトバの意味を一つひとつ定義して、習い覚えるわけではない。「あのゆんぼはいいよね」「いや、こっちのゆんぼのほうがいいよ」といったやりとりを聞いているうちに、「ゆんぼ」というコトバがわからなくとも、その意味が次第にわかってくるということがある(ここでは「ゆんぼ」をよく意味のわからないコトバとして用いている)。我々は他者とのやりとりの中で、コトバの同一性(内実)を、頭の中に構築していく(感覚的にはそのコトバの意味を直観しているという状態である)。したがって、実は、コトバの内実は一人ひとり少しずつ異なっているのである。

 その意味でも、絶対的な「正解」はないということになる。それでも、そのコトバを用いてコミュニケーションが成立するということは、ある程度の共通の内実を直観しているということである。その共通項の中に含まれる重要なポイント——「ああ、これこそが、これのキーワードだ!」と思わず膝を打つようなものを明らかにしていくのが本質観取という方法になる。

 本質観取とは、あくまでもそのコトバに対応する経験の生きた意味を捉える作業となる。したがって最初から辞書で調べないほうがよい。辞書はスタティックなコトバの定義は書いてあるが、必ずしも生きたコトバの意味を把握できるわけではないし、辞書にひっぱられてしまうということもあるためだ。