物事の本質を捉えられるか否かで、経営戦略はもちろん製品開発やコンセプトづくりの方向性も大きく変わる。本質を捉えることは難しいと思われがちだが、今回は誰でも実践できる「本質観取」の方法を紹介する。
本質を捉える事はなぜ重要か

前回は、星野リゾートと無印良品が「本質観取」を実践し、V字回復を実現した例を通して、本質を捉えることがいかに経営実践で役立つかを論じた。物事(言葉)のキー・ポイントを明晰に理解することで、そのポイントからぶれずに、自覚的に実践することができるのである。こうした思考法は、製品開発やコンセプト(企業理念)を明晰にしていく際にも活用することができる。
今回は本質観取をいかに実践するか、その方法を紹介する。その前に、復習も兼ねて本質を捉える重要性を示す事例を一つ挙げよう。白木夏子氏は日本初のエシカルジュエリーブランドHASUNAを立ち上げたが、起業当初の作品は「印象が暗い」「デザインが地味だ」と言われていたという。そんなある日、著名なバイヤーが次のようなキーワードを示してくれた。「どんな時代も、たとえいくつになっても、女性にとって“カワイイ”と感じられることは、何よりも大切な要素なの。永遠のキーワードなのよ」。この言葉は、身につける人よりも素材を、そして「カワイイ」より「おもしろい」を重視していた当時の白木氏にとって、まさに目からウロコだったという。さらに「年齢を重ねた肌には、それを輝かせるための色彩や輝きが必要なのだ」といった言葉も、「人よりもモノ寄り」の視点でデザインしていた白木氏の認識を変化させた。
コンセプトを「一人ひとりに寄り添い、若さを盛り立てると同時に、重ねた月日の重みをも艶やかに彩るようなデザイン」と捉えなおしたことで、デザインの方向性が定まっていくと同時に、「エシカルな立場から世界に貢献するだけでなく、身につけるすべての女性を輝かせるものであってほしい」といった目指すべき世界観(本質)が徐々に明確になっていったという。これこそがHASUNAの目指すべきデザインの本質でありコンセプト(企業理念)だと深く納得できるものになったことで、それを指針として経営を軌道に乗せていくことができたのである。(注)