本質を押さえるからこそ、答えが正解かどうかを判断できる

 ほとんどの人は、何かよいアイディアはないかと、端的に「答え」を求めようとする。しかし、たとえ「答え」を得ることができたところで、それが正解かどうかをどうやって判断するのであろうか。本質——欠かすことのできない重要なポイント——が明らかになっていなければ、アイディアの是非を判断することはできない。朝日を見るために東に向かっている限り、どれだけ一生懸命走ろうと目的を実現することは決してできない。良さそうだと思って膨大な資金を投入したもののまったく成果があがらなかったという大失敗は、本質から外れたときに起こるのである。

 人間はこれが本質だと理解したものに沿って行動する。そのため把握の仕方を間違えると、そうとは気がつかずに、やってはいけないことをしてしまう。たとえば、飲食店の本質を「料理を提供すること」と捉えていると、料理さえ出せばよいと考え、それ以外のサービスは自ずと軽視されることになる。無愛想な店員、融通の利かない対応といったものがまかり通ることになるだろう。しかし、「そのコトバを違うコトバで言い換える」という本質観取で考えてみると、飲食店とは「料理を通して心地よい時間を過ごしてもらう場」と置き換えることもできる。その本質に沿うならば料理の提供だけではない、サービスや空間づくりまで含めた戦略が立てられるだろう。

 本質が明晰になれば、その本質に照らして何が正解で何が不正解なのかも判断できるようになり、やるべきことは自ずと見えてくる。まずは「本質」から問い直し、これだ!と誰もが膝を叩くようなキーポイントを明らかにすること。その上で具体的な経営戦略、商品開発などを進めていくことで、成果をあげていくことができるのである。「本質観取ゲーム」はいつでもどこでも実施することができる。今回の説明を参考に、ぜひ愉しみながらやってみてもらえたらと思う。

 さて、「ほんとうの哲学に基づく組織行動入門」も次回がいよいよ最終回である。次回は、構造構成主義の中核原理となる「価値の原理」にクローズアップし、それがイノベーションのジレンマを超える方策となることを論じる。

(注) HASUNAの事例については白木夏子、生駒尚美『世界と、いっしょに輝く―エシカルジュエリーブランドHASUNAの仕事』(2013年、ナナロク社)を参考にした。

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【連載】早稲田大学ビジネススクール経営講座

ほんとうの「哲学」に基づく組織行動入門 記事一覧

第1回 「哲学」がMBAの人気講義になるのはなぜか?

第2回 なぜ「答え」ではなく「問い」が大事なのか?

第3回 組織に蔓延する「前例主義」を哲学でどう打ち破るか?

第4回 星野リゾートと無印良品に共通する本質を捉える思考法 

第5回 天才じゃなくても「本質」は掴める