志賀氏自身も、インドネシア時代にアジア通貨危機を経験しており、「カルロス・ゴーンもブラジルでハイパーインフレを経験するなど、とんでもない国ばっかり回ってますよ」と笑う。たしかに、昨今の世界的グローバル企業のトップ・マネジメント層は、急成長中の新興国市場を経験しているケースも少なくない。

ハワード・ユー(Howard Yu)氏
IMD教授。戦略とイノベーションを専門とする。ハーバード・ビジネス・スクールにて経営学博士(DBA)。イノベーションの大家クレイトン・クリステンセン教授に師事した。香港出身。
アジア新興国でのリーダーシップ確立は、イノベーションの大きなチャンスにつながる。それは、いまビジネス界で注目されているリバース・イノベーションやフルーガル・イノベーション(BOP市場のボトムラインに向けたさらに簡易なイノベーション)だけでなく、先端技術分野にも言える。イノベーションの大家クレイトン・クリステンセン教授に師事したIMD教授のハワード・ユー氏は、自動車業界のグリーン・エネルギーに対する取り組みを例に挙げて説明する。
「この分野はテスラなど米国に一日の長があるように思えるが、一歩引いて俯瞰してみてほしい。米国の車文化の前提にあるのは長距離をドライブする、つまり広い道路を早く走ることだが、トヨタや日産が実現しようとしている新技術は、非常に狭く混み合った高密度の道路事情の中で展開される。アジア各国の首都も似通った交通事情を抱えており、うまくブレークスルーを見つければ、先端技術をもって新興国に市場を創造することができるだろう」

イシュタク・パシャ・マームード(Ishtiaq P. MAHMOOD)氏
戦略とアジア・ビジネス、フルーガル・イノベーションなどを専門とする。ハーバード大学にてPh.D(経済学)。バングラディッシュ出身。
また、新興国での市場創造には製品イノベーションのほかに、インフラ面の課題もある。シンガポール国立大学准教授のイシュタク・パシャ・マームード氏は、「どの新興国を見ても、サプライチェーンにかかわるヒト、インフラ、資源、その他あらゆるものが足りていない状態にある。せっかく製品イノベーションが可能となっても、デリバリーに難があれば、規模は取れない。サプライチェーン上の機能を補完し合う、エコシステムの形成がカギとなる」と指摘する。「明治や味の素、ヤマト運輸など、東南アジアで地歩を築き始めている企業はある。しかし、企業単体で市場規模を拡大することはそう簡単ではない。いきなり現地企業とエコシステムを組むのが難しいとすれば、機能の異なる日本企業同士で補完し合ってもよいのではないか」。
マームード氏の指摘するようなエコシステムをつくるうえでは、前編で述べたようにソーシャル・キャピタル構築力、パイプラインが求められる。ここでもやはり、優秀なリージョナル・マネジャーの存在がカギとなろう。
志賀氏はこれまでの経験を活かし、グローバル・リーダー、グローバル人材の育成に注力していくという。「日本人には、勤勉さや忍耐深さ、チームワークなどの長所がたくさんある。そこにレジリエンス(逆境にしなやかに対処できる粘り強さ)が加われば、アジアでリーダーシップを発揮することも夢ではないんです」。そのようなリーダーの誕生を期待したい。
(了)
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