つまり、リージョナル・マネジャーとの違いは「単に経験の量、垣根の数」だというのがIMDの見解だ。地域、機能、業界、職種、組織……それぞれの境界を越えて共通の目標、共通の言語を共有し、リーダーシップを発揮できる人ということだ(それらを5つのパラメーターで測定する簡単なテストがIMDのサイト上にある。英語のみ)。
「近年、東南アジア地域の現地企業からエグゼクティブ研修の引き合いが増えている」とコーディング氏。「インドネシアやタイでは過去15年間、一人のリーダーの牽引力で急成長を続けてきたが、引退時期が近づいており、後継チームの育成が急務となっている。マレーシアの財閥系コングロマリットは自国内で順調に成長してきたが、今後インドネシアやベトナムへどう展開していくかに悩んでいる。優秀なリージョナル・マネジャーが圧倒的に足りていないという現実があるからだろう」
アジアでの人材争奪戦は激しくなっている。その点、待遇面や豊富なナレッジ、成長機会を用意できるグローバル企業が有利に思えるが、コーディング氏が見たところ、そうとも限らないという。各種のダイバーシティ調査が示すように、取締役会や経営陣の出身国を見れば新興国出身者が少なく、ガラスの天井があるように映る。しかも自国以外の地域で経験を積むというキャリアパスが求められる点もネックとなる。
「あるグローバル石油ガス会社はアジアで何千人ものエンジニアや地学者などを雇ったが、その25%が女性だった。やがてリージョナル・マネジャーとして頭角を現す人々が出てきて、グローバル層への昇格を打診したところ、転勤を伴うために、自国に留まりたいという理由から続々と現地企業に人材が流出した。こうした例は他にも散見される」(コーディング教授)。
日本人がアジアでリーダーシップを取るには
アジア新興国でリージョナル・マネジャーが不足しているという現実。さらに、ボストン コンサルティング グループの調査と見解のように、日本企業は新興国に打って出なければ、力をつけた新興国企業が日本市場を席巻するのも時間の問題、という見方もある。もちろん、ダイキンやユニチャームなど、着実に新興国市場に足場を広げている日本企業もあるが、全体としてはまだこれからである。日本人がアジアでリージョナル・マネジャーとして躍り出るチャンスはないのだろうか。
日産の志賀氏は「もちろん可能だ」と語る。そのためには、「建設的議論を行う力、伝える力、理解する力、相手への尊敬」を前提として、「逆境に対する強さ」「チャンスへの貪欲さ」を鍛えてほしいという。
「せっかく異国で経験を積むなら、できるかぎり難しいマーケットがいい。ソフトカレンシー(通貨の流動性の低い)国などはうってつけだ」というのが、志賀氏の持論である。たとえば、一晩で桁が変わるようなハイパーインフレ国では、調達時のレートと、企画、生産、販売時のレートがまるで異なってくる。ただでさえ原価計算がつかないうえに、過剰在庫は命取りだ。「恐ろしくて夜も眠れない。休日にゴルフなんてとんでもない。それぐらいの逆境にさらされれば、リーダーとしてのキャパシティが格段に大きくなる」。