マーケティングを率いる幹部たちはこうした現実に直面し、もはや従来の対面営業では不十分だと気づいた。そこで彼らはオフサイト・ミーティングを開き、営業チームの見込み客発掘(および顧客と関係を築くためのより優れたツールの開発)を支援すべく、「マーケティング2.0」と銘打ったビジョンを策定した。そこには、アナリティクスやクラウド・マーケティングの活用などが含まれた。そして自社および外部のウェブサイトとソーシャルメディアを、よりターゲットを絞って活用すること、さらには法人顧客をより効果的に特定することなどもあった。
それらは素晴らしい目標だったが、現実的には業務に落とし込むための新たな資源が不足していた。営業チームも、伝統的なマーケティング活動に頼りっぱなしだった。そこでアメリカズ・フィールド・マーケティングの幹部チームは「生産力創出プロジェクト」を立ち上げ、既存の仕事に費やす資源や時間を減らす取り組みを始めた。これにより、新しい計画に時間を振り分けられるようになった。
たとえば、複数の営業グループに提供されていた類似のマーケティング活動を1つのプロジェクトに統合したり、見返りの少ない施策を見極め、サポートを中止したりした。さらにマーケティングチームに対し、営業チームから来る優先順位の低い依頼は受けないよう促した。効果が明らかでない活動を丁重に断り、代わりにもっと効果の高そうな方法を勧めることとした。
こうして時間が捻出されると、幹部たちは、組織がマーケティング2.0に移行するためのパイロットプロジェクトをいくつか与えた。時間をかけすぎず確実に完了できるよう、各プロジェクトはマーケティング2.0の1要素だけに的を絞り、メンバーを少数精鋭にして、期間を100日以下とした。
短期プロジェクトの1つでは、アナリティクスの活用を学ぶという目標が立てられた。ある国の顧客行動に関するデジタルデータを統合、60日間で顧客エンゲージメントが20%増加し、この目標は達成された。別のプロジェクトでは、ある市場で営業チームとマーケティングチームの協力体制を強化することが目標とされ、その成果として100日間で見込み客のコンバージョン率は16%向上した。
もちろん、こうした変革は1度限りのものではなく、常に見直しや方向転換を必要とする。上記のマーケティング組織の幹部たちは現在、生産力創出プロジェクトと短期プロジェクトの組み合わせを四半期単位で実施しようと考えている。マーケティング2.0の推進にあたり、学習を継続して、効果のあることとないことを見極め、軌道修正していくためだ。
ただし、これらを実現させるには人材のスキルに関する対応も必要である。たとえばシスコでは、新しいマーケティング活動で求められるスキルを持たない社員がいることがわかった。そこで幹部チームは、人材育成や新規採用、臨時配属、社員の自発的な退職などを取り交ぜ、より大胆な人材配置のモデルを考案する必要に迫られた。
組織を前進させるには、新たな挑戦が不可欠である。ただしそのためには、必要とされる時間を意識的に管理する継続的な戦略を持たねばならない。それなくしては目標の達成は難しく、実現できてもつかの間の成功で終わってしまうだろう。
HBR.ORG原文:Help Your Team Spend Time on the Right Things October 23, 2014
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ロン・アシュケナス(Ron Ashkenas)
シェーファー・コンサルティングのマネージング・パートナー。共著に『GE式ワークアウト』(日経BP社、2003年)、The Boundaryless Organization、最近の著書にSimply Effectiveがある。
エイミー・マクドゥーガル(Amy McDougall)
シスコシステムズ アメリカズ・フィールド・マーケティング部門の戦略担当リーダー。