●インサイトの発掘と提供にとどまらず、組織全体の変革と学習プロセスを支援する

 AIGが取り組んでいるのは、ソリューションの適用と業務変革によって特定の機会を実現することだけではない。定量分析と意思決定のスキルを向上させる取り組みを、全社レベルで実施している。そのために幹部らによる定例会議が開かれ、オンデマンドでモジュール型のオンライン学習ツールが活用されている。

 ●社内の初期導入者と協力して、導入のメリットを組織全体に見える形で示す

 AIGの事業の多くは代理店や仲介業者に負うところが大きい。AIGとの関係性は、売上高や価値、潜在的可能性、全体的な有効性で評価され、優先付けされている。AIGが構築した意思決定のプラットフォームは、個々の仲介業者の顧客維持率や提案(企画案)の有効性を正確に予測できる。その精度と細分化のレベルを実現できる同業他社はほとんどないだろう。毎日、パフォーマンスに関する詳細な分析データが集計され、使いやすくビジュアル化されたフォーマットで営業マネジャーの元に届けられる。仲介業者のネットワークをどう管理するか判断する時、この集計データが非常に役立つ。

 ●1つか2つの取り組みに終始せず、複数の取り組みをポートフォリオで管理する

 意思決定の新しいアプローチを開拓するにあたり、すべての取り組みが結実するとは限らないので、1つのプロジェクトに傾注するようなやり方はお勧めできない。AIGでは上に述べた施策に加え、意思決定に関する10以上のプロジェクトを同時並行で進めており、その進展はそれぞれ異なる。

 ●反復的で迅速なサイクルによって適応していくほうが、入念に計画し1度にすべてを変えるアプローチよりもはるかに効果が高い。学習のほとんどはアクションから生じる

 不正請求の防止は、財務上の影響が大きいため重要な領域である。そこでAIGは、機械学習、予測モデリング、リンク解析、パターン解析などの技術を駆使して請求データの予測的パターンを識別する、独自のツールとモデルを開発した。現在は第二世代で、不正を識別する精度は主要ベンダーが提供する製品の約2倍も高い。最初は労働者の補償分野に適用され、いまや同じシステムが複数の事業にまたがって展開されている。この経験は、ソリューション開発においては反復的で学習に基づくアプローチが重要かつ効果的であることを示している。つまり皮肉にも――アナリティクスという分野でさえ――計画や分析より「アクション・バイアス」(行動ありきの姿勢)が問われるということだ。

 ●取り組みのインパクトを、複数の時間軸で設定する

 短期的には価値創出の根拠、中期的にはいくつかの確固たるビジネス成果、そして長期的には変革――これらを組み合わせて計画する。これまで述べてきた短・中期的なソリューションに加え、AIGではビジネスモデルや事業範囲を変えうる大胆かつ長期的な取り組みも検討している。その例としては、自動車事故の損害賠償請求の査定における写真と画像解析の活用、あるはセンサーとテレマティクスを用いたリスク評価の測定と調節などが挙げられる。

 絶え間なく進歩するデータサイエンスのツールによって、企業は意思決定の手法を改良し続けることができ、またそうすることを余儀なくされる。しかし既存の手法を改善するだけでは、自社の可能性を限定してしまう。まったく新しい意思決定の方法を確立できる機会を、見落としてはならない。その機会が花開き実を結んだ時には、ビジネスモデルやこれまでの活動を再考する必要もあるだろう。


HBR.ORG原文:How AIG Moved Toward Evidence-Based Decision Making October 1, 2014

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ムルリ・ブルスワール(Murli Buluswar)
AIGのシニア・バイス・プレジデント兼最高サイエンス責任者。

マーティン・リーブス(Martin Reeves)
ボストン コンサルティング グループのシニア・パートナー兼マネージング・ディレクター。BCGストラテジー・インスティテュートのディレクターも務める。