2013年6月26日、フォックスコンのCEO郭台銘(テリー・ゴウ)は、年次株主総会でこう宣言した――「我が社は現在、100万人を上回る従業員を擁しています。今後は、100万台のロボットを追加で導入する予定です」。言外に意味するのは、次は100万人の「人間の」労働者を雇いはしないということだ。(2015年2月、同社の組み立てライン作業の70%が今後3年でロボット化されるだろうという郭台銘の発言が報じられた。)

 ロボット技術にムーアの法則が当てはまり、年間40%の割合で進歩し続けた場合、近い将来に何が起きるかを想像してみよう。リシンク・ロボティクスが開発するヒト型作業ロボット〈バクスター〉は、つい最近ソフトウェアの更新を済ませたばかりで、年間500体が製造されている。現在の価格は1体2万2000ドルであるが、数年後に進化版が年間1万体製造されるようになれば、5000ドルを切る可能性もある。この価格では、最貧国の最低賃金で働く労働者ですら太刀打ちできない。

 技術の進歩はこれまでも人間の職を奪ってきたが、同時に新たな雇用機会をより速いペースで創出してきた。今回の事態は、大きく異なると思われる。とりわけ、IoT(モノのインターネット)の進展によって多くの取引や意思決定に人間の関与が不要となる点も大きい。経済学者ブライアン・アーサーの言う「セカンド・エコノミー」――業務処理が人の手を介さずにコンピュータ間でのみ実行される、デジタル化の進んだ経済活動――の時代が到来している(英語記事)。簡単に言えば、仮想経済だ。その主な副産物の1つは、高度なプログラムで稼働するインテリジェント機器によって労働者の職が奪われることである。成長著しいセカンド・エコノミーは、楽観的な起業家であふれかえり、すでに新世代の億万長者たちを生み出している。実際、セカンド・エコノミーこそが今後数十年にわたり経済成長を牽引するものと思われる。

 アーサーは、さらに冷徹な予測をしている。2025年にはセカンド・エコノミーの規模は、従来型の「ファースト・エコノミー」であった1995年の米国のGDP、約7.6兆ドルに匹敵するほど成長する可能性があるという。実際にそうなれば、(雇用者1人当たりGDPに照らして)約1億人の労働者の仕事が奪われることになるだろう。現在、米国の民間で雇用されている総労働人口が1億4600万人だ。職を奪われた人々の多くは、セカンド・エコノミーで新たな働き口を得るだろう。だが全員ではない。取り残され経済価値を持たない民間人の数は、米国だけでも4000万人にのぼると思われる。その結果生じる混乱は深刻なものとなろう。

 仮に、今日のロボットやインテリジェント機器ができる仕事は、平均的な知能(IQ100前後)の人間による仕事と同程度だとしよう。技術が現在のスピードで向上し、その結果ロボットや機器のIQが毎年1.5ポイントずつ上昇すると仮定する。すると2025年までには、これらの機械のIQは米国の総人口の90%を上回ることになる。今後10年間でインテリジェント機器のIQが15ポイント上昇すると、さらに5000万人の職が奪われるかもしれないのだ。

 実際に、IQが115前後の機械はすでに存在する。医療分野の実用例では、高度な教育を受けた医師の判断が、もはや必要なくなっている。2013年に米国食品医薬品局(FDA)は、ジョンソン・エンド・ジョンソンの医療機器「セダシス」を承認した。この機器は、患者の状態をモニターしながら鎮静薬のプロポフォールを投与することができ、麻酔専門医が不要となる。放射線科では、コンピュータ支援診断(CADx)システムが実用化されている。英国王立協会が発表した最近の研究によれば、コンピュータはX線写真上の透過性の高い部分(黒く写る部分)を放射線科医よりも10倍の頻度で特定できたという(英語論文)。