ここまで述べてきた予想は、政治家、経済学者、科学者たちの間で論争の的となるかもしれない。しかしそのような議論に終始していると、もっと大局的で重要な点を見失うことになる。機械の知能はすでに、仕事の価値に重大な影響を及ぼしている。そしていまや多くの分野で、人間の価値が、同程度の知能をもつ機械の費用によって決められているのだ。
年間40~60%の技術進歩に人間が遅れずについて行くことが、今日の課題である。ヘンリー・アダムズのような天才ですら、7%程度の技術進歩に後れをとらないようにするのは困難だと悲観していた。
政策面の単純な解決策としては、人間にもっと訓練を施すことが考えられる。しかし現在のスピードで変化が進めば、教育制度の改善効果は限定的かつ遅すぎて、永久に追いつかないだろう。また、政策として最低賃金を上げても、インテリジェント機器が人間を代替する動きを加速させるだけだ。
ジャーナリストのデイビッド・ブルックスは、政府がやるべきこととして次のように提言する。労働者が遠方まで通勤できるように、バス路線などのインフラを積極的に整備すること。富裕な高齢者など働いていない人への扶助を減らし、労働者に対する支援を強化すること。消費税の累進課税方式への移行を検討すること。そして早期教育プログラムやコミュニティ・カレッジ(米国では公立の2年制大学)、それ以降の高等教育を含め、人材育成に巨額の資金を投じること(英語記事)。だが、たとえブルックスの提案が効果的かつ積極的に実施されたとしても、年間40%の技術進歩に後れをとらずにいられるのは、しばらくの間だけかもしれない。
一方で、ブルックスの解決策は、結果的に「大きな政府」につながり管理・統制の強化を招く。肥大化し反応が鈍った行政システムが、急速な変化に対応し続けられるとは考えにくい。現在ですら、ほとんど対応できていないというのに。
仕事の意義と人生の目的を見出すうえで私たちが最終的に必要としているのは、これまでとは別の、個々人を考慮した、文化的な面からのアプローチだ。そうでない方法も可能ではある――人間はこれまでも常に解決策を見つけてきたのだから。しかしそれは、私たちが迎えている技術革命にはふさわしくないかもしれない。
HBR.ORG原文:What Happens to Society When Robots Replace Workers? December 10, 2014
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ウィリアム・H・ダビドウ(William H. Davidow)
ベンチャー投資会社モーア・ダビドウ・ベンチャーズの顧問。30年以上にわたりハイテク企業の幹部およびベンチャー投資家として活躍している。著書に『つながりすぎた世界』、『ハイテク企業のマーケティング戦略』、共著に『顧客満足のサービス戦略』、『バーチャル・コーポレーション』などがある。

マイケル・S・マローン(Michael S. Malone)
シリコンバレーとハイテク産業を専門とする著述家。20冊を超える著作があり、ウォール・ストリート・ジャーナルのレギュラー寄稿者でもある。オックスフォード大学サイード・ビジネス・スクールのアソシエイト・フェローも務める。新著にThe Intel Trinity: How Robert Noyce, Gordon Moore, and Andy Grove Built the World's Most Important Companyがある。