前者は、競合企業のバリューチェーンの形は変えずに、その一部を自社に組み込んだり、他社に入り込むことである。かつては内製化していた機能を、最近ではアウトソーシングするケースも出てきた。一方、競合企業のバリューチェーンの中に、新たな機能を加えて入り込む戦略とは、新たな機能を追加することで、中小の企業を束ねたり、新しい顧客接点を作ることができる。

協調戦略の類型化

 以上述べてきた2つの選択肢、すなわちバリューチェーン(VC)への機能の組み込み方とバリューチェーンの機能の代替か追加という軸を組み合わせると、図表1のようになる(本稿では青字の企業事例を取り上げる)(注1)。

 

 それでは、コンピタンス・プロバイダー、レイヤー・マスター、マーケット・メーカー、バンドラーの順に、具体的な事例を通じて各戦略の特徴を示していこう。

①コンピタンス・プロバイダー

 コンピタンス・プロバイダーとは、バリューチェーン全体では競合企業と競争しながらも、自社のコア・コピタンスに他社の製品・事業・機能を取り込み、そこでは協調していく戦略である。ある特定の領域で、寡占に近い状態を作ることが目標となる。以下、GEの航空機エンジンの例を見てみよう。

 GEは97年に「グローバル・サービス・カンパニー」を唱え、サービス型のビジネスモデルへの転換を図ってきた。例えば航空機エンジンに関して、従来の「売り切り」スタイルから、サービス中心のビジネスモデルに切り替えた。80年代初頭には、航空機エンジンは米国プラット&ホイットニー社が7割近いシェアを持ち、GEのシェアはその四分の一に過ぎなかった。それが2010年には、世界の航空機の半分以上がGE製のエンジンを搭載するようになり、競合のプラット&ホイットニーやロールスロイスを引き離すようになった。

 GEは航空機のエンジン販売業から、まずリース契約を中心とするビジネスモデルに切り替えた。このリース契約は、実際の稼働時間のみに課金する顧客本位の形であった。リース契約にすることで、GEはエンジンのどこが壊れやすいかという情報を把握し、次のエンジン開発に反映できた。さらに特定の部品は、一定の時間稼働すると故障の原因になりやすい事もわかってきたため、早めに部品交換することでエンジンの稼動時間を増やし、リース収入も伸びる結果となった。

 次の段階では、競合企業のエンジンを含む航空機エンジンのメンテナンス業に進出した。自社製のエンジンには多数のセンサーと発信システムを組み込み、航空機の飛行中のデータをリアルタイムで地上に送れるようにした。不具合が検出された場合、エンジンを搭載したまま対処でき、航空会社にとっては、航空機から取り外してオーバーホールする頻度が減り、大幅なコストダウンを実現した。さらに着陸してすぐにメンテナンスに取り掛かれるため、定時運行率が劇的に改善された。こうしたステップを経てGEでは、エンジンの予防保全、補修、スペアパーツ管理サービスなどを総合して「グローバル・エンジン・マネジメント」というパッケージを他社に提供している。GEはこのやり方を、MRI、CTなどの医療機器にも適用している。