さらにGEはこれらの延長として、産業機器を取りまとめる共通プラットフォームとなるソフト「Predix」を開発した。これをオープン化し、他社にも提供する方針を2014年明らかにした。重要なソフトをオープン化する事は、一見“敵に塩を送る”ように見えるが、この戦略は、「ソフト開発を強化して、情報分析力を磨くことが、産業機器メーカーが生き残る唯一の道だ」(注2)というポリシーに沿ったものである。同社はコンピタンス・プロバイダーとして、さらに多くの産業の情報を蓄積し、それを競争の武器としていくと考えられる。

②レイヤー・マスター

 レイヤー・マスターとは、競合企業のバリューチェ-ンの中に、ある機能だけを提供して入り込み、そこで利益を上げる戦略である。ここでは、コンピタンス・プロバイダーと同じように、できるだけ寡占に近い状態を作り上げることが目標となる。以下、セブン銀行の事例を見てみよう。

 セブンーイレブンでは、87年から公共料金収納代行サービスを始めたが、これが好評で、店舗内にATMを置けば、顧客の利便性がもっと高まると考えた。当初は、銀行各社とATM共同運営会社を作る構想を考えた。しかし各行と手数料で調整がつかず、また共同運営会社ではATMは銀行の出張所扱いとなり、主導権を取れないことから、独自に銀行免許を取得することにした。

 こうした経緯を経て、2001年にセブン&アイ・ホールディングスを出資母体としてアイワイバンク銀行が設立された。株主には、三井住友銀行、三菱東京UFJ銀行も名を連ねた。同行はATM手数料を収益の柱に据え、融資等は行わない決済専門銀行という構想で設立された。「預金集めに力を入れず、融資を行わない銀行が成功する訳がない」「収益源がATMだけで成り立つはずがない」と業界では囁かれていた。しかし設立3年目の2003年度には、経常利益、当期純利益共に黒字になった。また2005年にセブン銀行に改称した。同社のATMは出金が8割であり、ここに手数料が発生する。顧客が提携金融機関のそのカードでセブンのATMを利用すると、一件につき150円程が、提携金融機関からセブン銀行に入る。これが同社の収益源となっており、経常収益(事業会社の売上高に相当)のうち、95%が他社のキャッシュカードを利用したATM受入手数料である。

 セブン銀行が黒字化した理由として、第1にATMを安く調達できたことである。過去銀行が購入していたATMは1台1千万円、無人店舗のATMの場合には、より丈夫な構造にするため2千万円近くかかっていた。一方セブン銀行のATMは、通帳無し、小銭無しと構造を単純にし、一台300万円程におさえた。第2に、自前でATM店舗を持つコストが重荷になった金融機関が、同社と提携して自前のATM店舗から撤退し、またセブン銀行のATMを利用して事業エリアを拡大している。手数料を払えば、自前のATMを持たずに顧客サービスを向上でき、セブン銀行とはウィン-ウィンの関係にある。(金融機関にとっては、固定費のかかる無人店舗から撤退できたが、セブン銀行に払う手数料が高いことが、今は頭の痛い問題になってきた。)このようにセブン銀行は、一般の銀行が持つバリューチェーンの機能のすべては持たず、ATMだけに特化し、それを武器に他行のバリューチェーンの中に入り込むことで利益を上げている。