③マーケット・メーカー
マーケット・メーカーとは、相手企業のバリューチェーンの中に、新たな機能を付加することで、中小企業の市場形成に寄与し、顧客価値を高め、新たな市場を作る戦略である。ここではコスモス・ベリーズの事例を見てみよう。
家電販売のフランチャイズチェーン(FC)、ボランタリーチェーン(VC)運営のコスモス・ベリーズの加盟店は、創業10年目の2015年1月に1万店を越えた。コスモス・ベリーズの前身は、71年に豊栄家電として創業され、2005年にコスモス・ベリーズが設立された。出資比率はヤマダが51%、豊栄が49%で、2008年には、ヤマダ電機の完全子会社になった。同社の理念は「量販店と地域店の共生」であり、仕組みは図表2に示す通りである。地域販売店はコスモス・ベリーズに加盟すると、ヤマダ電機の仕入れ価格に同社の本部経費を上乗せした価格で商品を調達でき、それを安い価格で顧客に販売できる。その価格は、地域客がメーカーから直接仕入れる価格より安い。またその価格は、仕入れ数量に関係なく同じ価格である。地域店は加盟料10万円と月1万円の会費を払うだけで、この仕組みを利用できる。すなわちヤマダ電機のバイイングパワーと店舗網を利用して、新しいビジネスモデルを作り上げたのである。
地域電器店の数は、2014年に全国に約2万7千店あるとされるが、2020年には約1万3千店まで減るとの見方もあり、生き残り競争になっている。地域電器店のメリットとしては、以下のようなものがあげられる。
第1に、自分の店に在庫を持たなくても、ヤマダ電機の店舗をショールーム兼在庫置場として利用できる。多くの地域電器店はメーカー系列であるため、品揃えが特定メーカーに偏るが、ヤマダ電機の取扱いは幅広い。第2に、「テックランド:新直取システム」を導入すれば、顧客に2時間以内で家電を配達する事ができる。冷蔵庫や炊飯器などの故障時に、この迅速さは差別化の武器となる。第3に、コスモス・ベリーズが提供するBFC.netの仕組みを使えば、ヤマダ電機の近隣3店舗の在庫を確認でき、顧客への返答の信頼性が高まる。第4に、地域店はこれまでは、系列メーカーが休みに入るお盆や年末年始は商品調達が難しくなるため、多目に在庫を抱え、メーカーからの納品が遅くなる問題を抱えていた。しかしヤマダ電機は元旦以外は営業しており、在庫とサービスの問題を同時に解決できる。