経営者、「コンシェルジェ」を逆提案する

小杉:なるほど、面白そうですね。

中野里:例えば、外国から来る5人のお客様に「お寿司が食べたい」と言われたとします。でも、その中の1人が生ものがダメだったりすると、どこの寿司屋に相談すれば良いか困るんです。高い寿司屋の親父に「生魚が食べれない人がいるんですけど」って言ったら怒られそうだしね。

 そんな時、うちの場合だったら、各店に1人は旅館の女将のようなベテランの女性スタッフがいて、コンシェルジュのように対応してくれるんです。子どもがいたら奥の方の騒いでも大丈夫な席を用意してくれたりします。そういう体験をしたお客様はものすごくリピート率が高いんです。

小杉:そういうことは、WEBサイトやお店で知らせているんですか?

中野里:まだ個別対応でコツコツやっているだけです。玉寿司らしい差別化といえばこういうことなのかなと思ったりもしてるんです。だから、先ほど言われたように言葉にするとしたら、「あなただけのコンシェルジュになります」という方向を示したら良いと思いますか?

小杉:それはいいですね、一人ひとりがプロの寿司コンシェルジュになるんだという方向性は社員の方にとっても分かりやすい目標だと感じました。

 そもそも、コンシェルジュとお寿司って普通はくっつかない言葉ですよね。僕が大学生のバイトだったとしたら、先ほど見せて頂いた経営理念の心構えよりも、「お寿司屋さんのコンシェルジュになってください」と言われた方が目標が明確になって気持ちが変わるなぁーと思いました。

中野里:まぁ、本当にそこが、今後うちが目指さなきゃ行けない大きな戦略なのかもしれませんね。そこの勘所さえ共有できれば、「玉寿司はかゆい所に手が届くなぁ」と言われて、驚異的にリピートが増えると思っているんです。

小杉:先ほどの話しで言えば、コンシェルジュこそ編集マンですよね。グランドメニューはあるけれど、お客様に応じて変えて行くわけですから。

中野里:そう。コースのメニュー作りはまさに編集なんですよ。意外と有名なお店でも上手に編集が出来てない店は多いですね。ある有名店に行った時、私達はお酒をのみながら少しつまみたいだけなのに、料理人が自分の技を見せたくて、主役級が次々と出てきた経験もあります。そんな店には「もう一度行きたい」とはならないですよね。

小杉:なるほどー。お客さんとの温度感がずれているわけですね。

中野里:もっと言えば、店舗というか、どういうシチュエーションで食べるかを考えるのも編集ですよね。外国の方が寿司の握りを体験したいと言われれば「マイカウンター」のようなものを作ったり、ウェディングをやったことも、勉強会の後にお寿司という会をプロデュースしたこともありました。極力「ノー」とは言わずに、面白いものはなるべく工夫して実現してます。

小杉:面白いコンテンツがたくさんあるんですね。

中野里:他の寿司屋には負けないことをやっているという思いはあるんです。(沈黙8秒)「あなたのコンシェルジュ」っていうのは、高齢化社会の中で年配の方にはすごく求められますね。「○○さん、元気でしたか? しばらく電話が無かったから、どうされたかと思っていましたよ」といった話し方は、うちのスタッフは本当に上手いんですよ。