このようなハイブリッドを、長期にわたってうまく機能させることは難しい。双方のインセンティブが相容れないからだ。最初に登場したプラッティシャーの1つであるセイ・メディアは、2014年の終わりにパブリッシャー関連資産の売却を発表した。技術的なプラットフォームに専念するためだ。CEOのマット・サンチェスは、パブリッシャー関連事業を断念する理由として、テクノロジーとコンテンツの両立が不可能なことを挙げた(英語記事)。以下はその抜粋だ。

「当社が至った結論は、多くのメディア企業が悩んでいることに通じる。つまり『ブランドを確立するのか、それともプラットフォームを構築するのか』という問題だ。2つはまったく違う世界観で成り立っている。組織に明確性を担保するのは難しい」

 他のプラッティシャーも、成熟するにつれ同様の難問に直面していくかもしれない。プラットフォームがまだ新しい時期には、双方のインセンティブが比較的うまく折り合う。新しいプラットフォームがユーザー作成コンテンツのホストになろうと意図している時、最優先の目標は「ユーザーを惹きつけ、コンテンツを作る気にさせる」こととなる。そして、質が高く、丁寧に編集されたコンテンツがあればオーディエンスを惹きつけるのにもってこいだ。よく練られたコンテンツは、プラットフォームに「種をまく」役割も果たす。新規ユーザーはそれを見て、ツールの使い方を学び成長していくからだ。

 たとえば、2014年に2500万ドルの資金を調達したプラッティシャー、ミディアム(Medium)の事例を見てみよう。同社は高度に編集されテーマが明確な記事を、外部に委託している。同時に、世界中の誰もがミディアムに投稿できる仕組みも採用している(2015年初めに日本語版も始動)。ツイッター共同創設者のエヴァン・ウィリアムズが立ち上げた同社は、優秀なライターや編集者たちに報酬を払って各自の名前で記事の「コレクション」を作成してもらうことで、独自の地位を確立した。開設後間もなく、ユーザーにアカウント登録を義務付け、表面上はゲートキーピング(情報を取捨選択し、一定の基準を満たすメッセージのみを伝える仕組み)を設けている。これらは、どちらかといえばパブリッシャー寄りの行為だ。

 だがプラットフォームは、ユーザー数が増すにつれ監視を緩めたいと望むようになる。ユーザーの迅速かつ自由な投稿を促すためだ。以前から監視がそれほど強くなかったのであれば、問題にはなるまい。だがパブリッシャーの役割を果たしていた場合は、確執が生じるおそれがある。ミディアムの場合、オープンなプラットフォームとして規模を拡大し、誰もが投稿できるようにした時に、問題が表面化した。ミディアムのために仕事をしていたライターや編集者たちの一部が(その多くは出版業界出身者だった)、公に不満を表明したのだ。

 編集者アリキア・ミリカンの記述を見てみよう。ミディアムが大量流入を阻止するためのゲートを開放して、いかなるユーザーもアリキアのコレクション宛てにコンテンツを出せるようにした結果、ワークフローの整理が困難を極めたという。彼女がミディアムに加わった当初は、担当する記事すべてに十分な注意を払うことができた。だがミディアムの方針でユーザーがコンテンツを簡単に出せるようになると、彼女は突然、怒涛のような情報に振り回される事態に陥った。