DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー7月号での連載「リーダーは『描く』」はLIXILグループ社長の藤森義明さんに登場いただいた。一緒に描いたのは、同社の社員4人。緊張した雰囲気から始まったワークショップは思わぬ結末に。(構成・崎谷実穂、写真・鈴木愛子)。

 

“すっぱそう”から“未来への希望”まで。イメージの多様さを知る

 霞が関にあるビルの、とある一室。一見、普通の会議室ですが、通常と違うのは大きな絵が飾られていること。これから、LIXILグループの藤森義明社長と4人の社員による、絵を描くワークショップが始まるのです。

 このワークショップは、 “Vision Forest”という組織変革アプローチの一部で、アート教育の企画・運営やアーティストのマネジメントをするホワイトシップと、ビジネスコンサルティング・サービスのシグマクシスが共同で提供しているプログラムです。本誌の連載「リーダーは『描く』」の取材では、この2社にご協力いただいております。今回は7月号の取材のために実際のワークショップの一部を実施していただきました。

 室内には描く当事者だけでなく、本誌DIAMONDハーバード・ビジネス・レビューの取材でもあり関係者もたくさん集まっています。LIXILの社内報の取材陣も。部屋の中は、これからアートが生まれることへの、期待と緊張が入り混じった空気に満ちています。

 ワークショップのために集まった社員は、仕事内容も、年次もバラバラ。その全員が、同じテーマで絵を描きます。4人が席について待っていると、藤森さんが現れました。過密なスケジュールのなか駆けつけた藤森さんは、ちょっと落ち着かない様子。すこしそわそわした空気の中、ワークがスタートしました。

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ホワイトシップの長谷部貴美さん

 まずはこのワークショップを主催するホワイトシップの長谷部貴美さんがモデレーターとなって、絵を鑑賞することから始めます。いきなり描くのではなく、観ることからアートの世界に少しずつ入っていくのです。みんなでポストイットに感想を書き、絵の前に貼っていきます。

 役員秘書の近石理絵さんは、「真ん中の色味が違うところから、異世界につながるような不思議なイメージがわいてきて。水や海のイメージもありますが、そこに凍えるような寒さはない気がしました」という感想を発表しました。

“中心はすっぱそう”と味覚にまで広げた感想を書いたのは、マーケティング部の高橋一さん。

「中心の赤いところがあんずみたいに見えたんです(笑)。エネルギーを感じて、これは始まりかけているのか、終わりかけているのかどっちなのだろう、という疑問がわいてきました」。

“希望”“未来”“目”と書いたのは藤森さん。「中心は目ですよね」と、言い切ります。

「で、渦を巻いて、未来に向かっているんだと思います。明るい色で未来には希望があることを表しているんじゃないかな」と、ポジティブで説得力のある解釈を展開しました。

“真ん中に軸のようなものがある”“真ん中が深い”“真ん中に向かって落ちていきそう”という、「真ん中」づくしの感想を書いた人事部の今大樹さん。その理由は?

「赤が中央にしか使われていないことがすごく気になって。真ん中にずっと目がいってしまいました」

 一方、エクステリア開発部の岡本恭枝さんからは、「生命の誕生前の生命力や、大きな海原。中央がお母さんのお腹の中で、そこが核となって広がっていく感じがしたんです」とまったく違う感想が。まさに、それぞれの個性、発想が現れる鑑賞ワークとなりました。