では、私はこれまでのやり方を変えて、仕事を1つひとつ順番に進めて行くべきなのだろうか? この問題と格闘してきたが、いまだに答えはわからない。上記の研究についてペルシコに話を聞くと、彼は研究の結果が直感に反していることを認めた。「この結果には、非常に優秀な人でも困惑する」という。ペルシコの父は理論物理学者だが、この結果に驚き、信じなかったそうだ。

 ペルシコ自身はこの研究の後、それまでのやり方を変え、仕事を1つずつ順番に仕上げることのメリットを以前より意識するようになった。1度に取り組む研究プロジェクトは1つか、多くても2つにしているという。以前ペンシルベニア大学で終身在職権取得に必要な論文を期限内に仕上げようと頑張っていた時に、これを知っていたらもっと能率よくできたはずだと嘆いた(最終的に終身在職権は手に入れたのだが)。

 並行作業をしたくなる主な誘因の1つとしてペルシコが挙げるのは、複数の依頼者から仕事を引き受けている場合に全員から受けるプレッシャーだ。自分の仕事を優先するよう働きかけてくる依頼者も時にはある。そこで「まだ取りかかっていませんが、予定には入れています」と言うよりも、「ええ、ちょうど今やっていたところで、順調に進んでいますよ」と答えたくなるのが人情だろう。

 このような社会政治的プレッシャーは、私にとっても無視できない要因だ。確かに私は多くの締め切りをすべて、あるいはほとんど守ってはいるが、こうしたプレッシャーに打ち勝ち、仕事を1件ずつ順番にこなすようにすれば、少なくともある種の作業では能率が上がる気がする。たとえば、さほど創造性を要せず短時間で終わる雑務(記事掲載依頼への返信など)が5~6件あるような場合なら、いくつか後回しになるとしても、1つずつ片付けていくほうがよさそうだ。

 1つの作業を続けることによって、そこに完全に没頭し、他のことがまったく意識に上らなくなる「フロー」状態に到達できる。そして作業の完遂に向けて継続的に取り組むことで、心理的終結感(psychological closure:問いに対する明確な答えを欲し、曖昧な状態を嫌う傾向)が満たされる。これは人間が持つ非常に強い欲求だ。ある研究によれば、作業のクライマックスで妨害が入ると、終結感への欲求が高まったまま、それを満たそうとして別の無関係な作業に対してさえもより決断的になるという(英語論文)。

 ここまでは納得できる。しかし、並行作業にも何か良い部分があるような気がしてならない。1つの作業を継続することのメリットに匹敵し、依頼者からのプレッシャーに対処するだけにとどまらない、別の効果があるのではないか。

 このことを考えるうえで役に立ったのは、アメリカ印象派の画家ジョン・C・テレラックとの会話だ。彼はある明白な理由から、たくさんの作業を同時並行で進めている――そのほうが優れたアーティストでいられるからだ。

 フロリダにある彼のアトリエの壁には、いつも5枚から20枚ほどのキャンバスが並んでいる。それらを同時に進めるのが彼のスタイルだ。そうすると、各作品の問題点を見つけて手直ししやすくなるという。テレラックはこう話してくれた。「以前は、1つの絵を完成させることにすべてのエネルギーを注ぎ込んでいました。でもそれでは、絵のだめな部分を解決できないことが何度もあったのです。よく落ち込んで、自分に悪態をついてましたよ」