今では複数の絵を比べることによって、問題の原因が見つかるという。この絵の空の色が暗すぎる、人物の位置がよくない、色が調和していないなど、直すべき要素がわかるのだ。

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ジョン・C・テレラック “Maple Sugaring”

 また、複数の絵があることで、その日どれに取り組むか選択の余地が生まれる。「おかげで、絵が単調にならずに済みます。その日によって絵が変わり、それぞれが個性的な作品になるんです。型にはまった絵を描くのを避けられるというわけです」

 これは私が探していた考え方の一面だ。複数の作業を並行すると、そのなかで相互作用が生じ、メリットが生まれることがある。さまざまな事柄に注意を向けていると、個々の問題点がクリアになり、解決策がおのずと浮かんでくるのだ。そしてマンネリから抜け出して、新鮮な気持ちを保てる。1つのタスクで使ったアイデアを別のタスクに活かすこともできる。

 INSEADシンガポール校のハイヤン・ヤンらの研究では、並行作業の別のメリットが示唆されている。1つの作業を離れて別の作業に向かうと、最初の作業への意識は一時中断されるが、無意識下の思考は中断されずに働き続けている。そして適切な条件下であれば、意識的な思考よりも無意識下の思考のほうが創造的なアイデアの着想につながりやすい。ヤンの実験では、まず被験者に子供用玩具のデザインを考えるというタスクについて説明した。そして実験群には実際に作業を開始する前の3分間、語彙に関する別のタスクを与えて気を散らせた。すると、対象群よりも創造的なアイデアを多く生み出した(英語論文)。

 私も同様の体験をしたことがある。かなり頭を酷使する仕事の後、何か別のことを考え、再度その仕事に戻るとなぜか簡単になっているのだ。そもそも私が並行作業を好むようになったのは、こうした現象があったからだと思う。そして「テレラック効果」も実感する。つまり、複数の作業を有意義に比較でき、どの作業に取り組むかを選べるというメリットだ。

 仕事が急激に増える時、マルチタスクが余儀なくされ、すさまじい集中力が必要になる。私は特に休暇の後、高速回転状態に戻るまで1週間ほどかかる。しかし間もなく本調子を取り戻し、いろんなタスクを行ったり来たりする。まるで映画『マトリックス』の主人公ネオが、弾丸をひらりひらりとかわしている時のような感覚だ。

 この高速なリズムのせいで、仕事を期日内に仕上げる確率は下がるのかもしれない。しかし私はこの方法で非常に効率がいいと感じ、いくらかの快感さえ覚えている。これはこれで、一種のフロー状態とも言える。シングルタスクに没頭している時とまったく同じように、並行作業も楽しく生産的に感じられるのだ。

HBR.ORG原文:The Pros and Cons of Doing One Thing at a Time January 20, 2015


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アンドリュー・オコネル(Andrew O'Connell)
『ハーバード・ビジネス・レビュー』のエディター。著書にStats and Curiosities: From Harvard Business Reviewがある。