私はキャリアの初期にこんな経験をしたことがある。当時所属していたビジネススクールの学部長(かつては同僚であった)が、私ともう1人の同僚に対し、ある重要な変革プロジェクトを主導するよう求めた。何週間か経つうちに、ほとんど関与しない学部長に対して我々は不満を募らせていき、彼を「メール転送マシン」と呼ぶまでになっていた。メールを他の関係者に転送すること以外に、何もやっていないように見えたからだ。自分が依頼した仕事なのに、詳細にまったく関心を示さず、我々に何らかの手助けをするだけの知識も持ち合わせていなかった。
たしかに彼は、他のプロジェクトで多忙を極めていた。企業の上級幹部たちとのネットワーク拡大などもその一部だ。しかし我々は、いいように利用されているという感覚を拭えなかった。このような状態で、当然ながら良い結末には至らなかった。
いま振り返ってみると、我々自身も状況を悪化させていたということがよくわかる。同僚と私は、この上司をほとんど役に立たないと決めつけた。いったんそう思い込むと、我々はますます物事を彼の視点から見ようとしなくなったし、報告を怠るようになった。
これが悪循環の始まりだった。我々からの報告が減っていくので、彼が得る情報も減る。状況を把握できない彼は、有益な支援ができない。そのことに我々が怒りを募らせ、両者の溝はますます広がっていくのだった。
我々がやるべきだったのは、一方的な判断を控え、共感を持って彼に接することだ。彼は結局のところ、我々を信頼してこの重要な仕事を任せ、変革を主導する大きな自由を与えてくれたのだ。これはマイナスどころか、大いにありがたい。詳細よりも大局に目が行くという彼の心理傾向に、我々は気づくべきだった。積極的に関与しなかったのは、関心や配慮の欠如からではなく、単に彼の思考様式が反映されていただけなのだ。そして我々のほうから連絡を絶やさずに、彼を巻き込み続けるべきであった。また、「この分野では私たちのほうが、あなたより有能だ」といわんばかりの態度を我々が見せていなければ、彼はプロジェクトの検討にもっと快く応じてくれたかもしれない。
最後に重要な点として、この上司が組織の上層部や外部との関係強化に努めていたことは、個人的な野心の表れではある。だが、我々はそれを憤慨するのではなく尊重すべきであった。彼のネットワークを使って我々のプロジェクトを助けてくれるよう、頼むこともできたはずなのだ。彼は喜んで、誇りを持って引き受けてくれただろう。
ハンズオフ型の上司に不満を感じている人は、その状況には有利な点もあることを心に留めておくとよい。そして自分の鬱憤を制御することも非常に重要だ。そのような感情が人間関係にプラスに働くことは、まずない。上司への共感を改めて呼び起こしてみると、状況は好転するだろう。
その後は、上記で紹介した方法のいずれかを選ぶとよい。上司ともっと連絡を密にして、常に情報を提供し、関与し続けてもらう。あるいは、上司が時間と関心をどう振り分けているか本人に気づいてもらい、自分への関与を促すのもよいだろう。場合によっては、状況を受け入れて何とかやっていく術を学ぶべき時もある。つまり、上司の態度は理想的ではないが、致命的なわけでもないと考えるのだ。ハンズオフ型の上司を持つことは必ずしもデメリットではない。正しい戦略で対処すれば、その状況を利点に変えることができる。
HBR.ORG原文:Dealing with a Hands-Off Boss December 17, 2014
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ジャン=フランソワ・マンゾーニ(Jean-François Manzoni)
INSEADシンガポール校のシェル寄付講座教授。同講座で人材・組織開発を担当し、経営管理論の教授も兼務する。ジャン=ルイ・バルスーとの共著にThe Set-Up-to-Fail Syndrome(邦訳『よい上司ほど部下をダメにする』講談社、2005年)がある。