●「小さなステップ」を積み重ねる

 心理学者のムザファー・シェリフとカール・ホブランドは、態度の変化を促す強力な要因を特定し、これに「受容範囲(latitude of acceptance)」という素っ気ない名称をつけた。その原理を説明しよう。どのような態度も、賛成と反対を両端とする軸の上にあるものと捉えることができる。たとえばグーグル社員の一部は、自社が無意識の偏見に対処することに対し期待に胸を弾ませるだろう(強力な賛成派)。他の社員は「自分は偏見を抱いていないから、変わる必要はない」と信じ、取り組みを不快に思うかもしれない(強力な反対派)。残りの社員たちは、両端の間のどこかにいる。

 シェリフとホブランドによれば、人はこの軸上のどこにいようと他の見解を受け入れる余地があるが、それは自分に近い範囲に限られる。これが前述の受容範囲、言い換えれば「OKゾーン」だ。ブライアンのプレゼンを聞いたあるエンジニアは、「私は偏見を抱いていないから、変わる必要はない」と思うとしよう。その場合、彼女のOKゾーンに入るのはおそらく「ダイバーシティの取り組みは時間の無駄だ」、あるいは「私が懸命に働いて得た成功について、罪悪感を持たせたがる人がいる」といった態度であろう。

 もしブライアンのプレゼンが、「あなた方全員が偏見を抱いている」と大きく書かれたスライドで始まったとしたら、それはこのエンジニアのOKゾーンのはるか圏外にある。つまり拒絶範囲、言い換えれば「拒絶ゾーン」に入るわけだ。ここで、決定的に重要なポイントがある。他者に提示された態度が自分のOKゾーンから大きく離れている時、人はその態度を受け入れないばかりか、積極的に排除しようとする。あらゆるリソースを総動員して抵抗するのだ。

 もしブライアンがプレゼンの冒頭で「誰もが偏見を持っています」と宣言すれば、前述のエンジニアはそれに反応して、自分の中に偏見があることをいっそう頑なに否定するだろう。他者の態度を変えたければ、まずその人のOKゾーンがどこにあるかを知らねばならない。その方法は、相手が現時点で態度の軸のどこにいるのかを、質問によって特定することだ。

●相手のOKゾーンを探し出すには

 2005年、デイブ・リッチャーは大手防衛関連企業のプロジェクトマネジャーだった。彼の任務の1つは、何千ものコピー機やプリンタ、スキャナ、ファックス機(その多くは各部署に配置され単独の機能しかない)を複合機に置き換えることだった。複合機を使うには、各社員がオフィスから出て廊下を歩いていく必要があった。現在ではオフィス用多機能プリンタはありふれた備品だが、10年前のこの会社にとっては目新しい製品であった。職場にそれを導入することは、社員たちに深く根差した習慣を変えるよう求めることを意味した。そのメリットは理解されていなかったが、差し当たって生じる不便ならば明白だった。

 デイブはすぐさま抵抗に遭った。特に激しい抵抗を示したのは大きな部署を率いるマネジャーのケンで、部下の仕事を「邪魔」してほしくないと言い張った。ケンの影響力を考えれば、他の大勢も彼に随従すると思われた。猛反対の理由は不明だが、ケンを賛成派に引き入れる必要がある。デイブの最初の行動は、ケンのオフィスに出向き、純粋な好奇心からケンの見解を尋ねることだった。