権力や支持基盤を持たない一介の従業員が、組織で何かを変えるにはどうすればよいか。グーグル社員によるダイバーシティを推進する変革を例に、人々の意識を「少しずつ変える」効果と方法を示す。
職場においては常に、変更・改革すべき案件が生じる。新しいプリンタへの交換といった些細なものもあれば、ダイバーシティ(人材多様性)促進に向けた新たな方針の導入のような、大々的なものもある。しかし規模の大小にかかわらず、改革をいかに進めるかという問題は常に悩みの種だ。
変化を容易にするものもある。たとえば幹部であれば、命令という形で変化を推進できる(ただし常にうまくいくわけではない)。大勢の同志がいれば、大々的な支持を生み出せる。周囲の人々が1人の仕事の成果に依存していれば、それをいつどのように提供するかについてはその人物が条件を付けることが可能だ。
しかし、変化を推進する担当者はそのどれも持っていないことが多い。「職場における無意識の偏見」という問題の解決に向け大規模な取り組みを推進することになった、グーグルのマネジャーであるブライアン・ウェルの例を見てみよう。
自分が持つ先入観を減らすことに前向きになれるのは、一部の人だけだ。自分が無意識のうちに差別的偏見を持っているかもしれない、という考えを否定する人たちもいる。無意識の偏見とはたとえば、"check your privilege"のスローガン(「あなたの特権をチェックせよ」。人種や性別、財力などの面で自分がいかに恵まれているか理解しているか、と問うネット上のミーム)や、#BlackLivesMatter(黒人の命を軽んじるな)のハッシュタグに対して、反感を覚えることなどだ。
ブライアンにとって、グーグルという巨大企業の全社員に彼の考えを拒絶しないよう説得するだけでも難題だった。ましてや方針を前向きに受け入れてもらうことは、さらに難しい。なぜなら彼は幹部でもなければ、大勢の同志を率いているわけでもなく、協力を強いる駆け引きができる立場でもなかった。ピープル・アナリティクス部門(他の会社では人事部に相当)に所属し、社員の意識を変えるためのプレゼンを計画している一介のマネジャーにすぎなかった。
社員が組織改革に抵抗することは珍しくない。過度の仕事量と負担にあえいでいるため、変化を受け入れる余裕を持ち合わせていないのだ。また、社員は課された仕事を達成するために習慣とルーティンに頼っている。ところが、変更や改革は習慣とルーティンを乱すものであり、能動的でエネルギーを要する新たな方法が強いられるため彼らにとって大いに望ましくない。そのため、権力や地位や幅広い支持に頼れないブライアンのような改革の旗振り役には、優れた戦略が必要になる。
変化を巧みに引き起こすにはいくつかの条件がある。そのうち最も重要なのは、社員を説得して意識・態度を変えてもらうことだ。拒絶から少なくともオープンな態度へ、できれば積極的な容認へと変える必要がある。態度に変化を起こすことができれば、行動を変えることははるかに容易になるのだ。