新型プリンタの導入や偏見の抑制のみならず、部門の統合や指揮系統の変更など、どんな改革の取り組みにおいても小さなステップの積み重ねは有効だ。事前に少しの労力を注いでおけば、より強力で幅広い支持をきっと得られるはずだ。
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コラム①:あなたは伝達者として最適か?
「OKゾーン」を利用する方法は多くの状況で極めて効果的だが、限界もある。人は考え抜いた結果としてではなく、自分のアイデンティティや道徳的直観から、ある立場に強く身を投じる場合がある。たとえば科学に関連する方針(予防接種、気候変動、遺伝子組み換え作物など)を巡る昨今の議論では、科学的根拠と相反する見解を擁護する人々がいる。理由は宗教的信念であったり、自然への干渉に反対する「クリーン」運動への強い共感であったりする。
こうした人々に科学の正当性を受け入れるよう説こうとしても、口を開く前から強力な抵抗に遭う。「科学界の一員」と見なされることで、むしろ主張の信ぴょう性を疑われてしまうからだ。最も頑なな人々に対してもOKゾーンへの働きかけは有効だが、その場合はより目立たない方法が必要かもしれない。反感を買いにくい人物――クリーンな食生活の実践者や、信頼されている聖職者など――を伝達者として雇うのが1つの方策だ。
コラム②:改革推進にありがちな過ちを回避する
小さなステップの積み重ねによって、改革を阻む以下のような落とし穴を回避しやすくなる。
●前進ではなく「転向」を目指してしまう。1回の働きかけで目標のすべてを達成しようとしてはならない。
●すでに賛同している人たちを中心に働きかけてしまう。
●他者の助けを借りずに改革を進めようとする。大勢の声がまとまってメッセージとなれば説得力が高まり、一個人の実験にすぎないとして却下されることもなくなる。
●メールにばかり頼ってしまう。いくらよく練られた文面でも、メールのみで大きな変化は生じない。
●崇高な理念を掲げることのみによって、改革の意欲を高めようとする。崇高な理念は利己心の前には脆い。
HBR.ORG原文:You Don’t Have to Be the Boss to Change How Your Company Works February 26, 2015
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ジェニファー・オーバーベック(Jen Overbeck)
メルボルン・ビジネススクール准教授。経営学を担当。社会心理学者であり、権力と影響力に関する国際的権威。