ブライアンはこうした例を短時間の間に挙げていき、聴衆に「自分はもしかしたら、有益な偏見ならば抱くことがあるかもしれない」と思わせ(4:38)、その後「間違いなくそうだ」と納得させた(5:00)。ここから(聴衆に対して簡単な心理実験を行い)、望ましくない偏見も存在するという事実と向き合わせ(9:27)、偏見に対処することの重要性を理解させた。

 この時点で、「滑りやすい坂」という言い回しが思い浮かんだ読者もいるかもしれない。実際、ここで用いられているのはまさにそれだ。小さな「態度の変化点」を段階的に提示していけば、聴衆はそれらの点を1つずつたどり賛成へと移行しやすくなる――これが滑りやすい坂をつくるということだ。このアプローチには往々にして時間と忍耐が必要になるが、時にはごく短時間で可能な場合もある。小さなステップの積み重ねは、演説や同調圧力や命令よりも、聴衆の深い部分で本物の変化を引き起こせる。

 小さなステップの積み重ねは、理論上は時間がかかるように思える。だがブライアンのプレゼンはそうとは限らないことを示している。開始からたった13分の間に、段階的に議論を進めながら、聴衆を引き込んで納得させているのだ(動画で聴衆の体の動きや活気を見れば、彼らが賛同していることが見て取れる)。ブライアンは強硬な態度や対立的な姿勢はまったく見せていない。各段階で聴衆が抱くであろう見解を認識し、それらを正当なものとして受け入れ織り込みながら論述を展開している。聴衆の視点に寄り添っているため、メッセージが効果的なのだ。

 どんな改革の取り組みにおいても、小さなステップの積み重ねをうまく用いるにはある程度の計画が必要だ。メールを一斉に送って組織全体を一気に変えようとするのではなく、働きかける相手を厳選し、それぞれに適した方法を慎重に考えなくてはならない。小さなステップの威力を用いる時には、以下の問いを自問しよう。

●変更・改革案について、個々の関係者は現在どんな態度を取っているのか。

●その態度をこちらが必要としている態度へと変えてもらうには、どんな一連の小さなステップを要するか。

●自分以外に、改革を提唱する「伝道者」に協力を求めることができるか(後述のコラム①を参照)。

●関係者に、どの程度の変化を求めるのか。こちらの見解を全面的に受け入れてもらう必要があるのか。それとも全面賛成ではなく、OKゾーンをこちらの見解に近づけてもらえれば十分なのか。