働きがいのある職場に関する、5つの誤解と真実。職場の魅力度を考えるうえで、従業員の幸福度や組織文化、設備の充実などにしばしばスポットが当たる。しかしそれらを過度に追求すると、職場改善の本質から逸れる危険がある。
こんな想像をしてみよう。今晩あなたが職場のPCから離れ、コートを着て夕食のために帰宅した後、会社は一夜にして「世界最高の職場」へと魔法のような変貌を遂げている。
あなたはどんな変化に気づくだろうか。次に出社した時、何が違っているのだろうか。
私たちは「素晴らしい職場」と聞くと、フォーチュン誌で毎年上位に挙がる数十億ドル規模の大企業をつい思い浮かべてしまう。従業員を快適にする数々の設備がある、広々とした敷地。成功ばかりが続き、垣根のない協力体制があり、従業員は幸福感でいっぱいという夢のような場所。
しかし実際には、こうしたイメージに基づく思い込みの多くは、良い職場のあり方に対する誤解につながるのだ。
近年ではさまざまな分野の研究者が、仕事のパフォーマンスを高める条件を調べている。それらの知見をまとめた拙著The Best Place to Work: The Art and Science of Creating an Extraordinary Workplaceでも説明しているが、素晴らしい職場を形成する要因は一見してわかりやすいものばかりではなく、むしろかなり常識に反するものも少なくない。
以下、素晴らしい職場に関する5つの誤解を見ていこう。
誤解①:素晴らしい職場では、従業員の誰もが常に幸福である
この10年で、幸福に関する文献を通して説得力のある知見がいくつも知られるようになった。実験室やフィールド実験で行われた各種の調査では、人間は気分が良い時にはより社交的で利他的になり、創造的にもなることが示されている。
当然、多くの組織がこの研究成果を活かそうと、従業員の幸福度を高める方法を模索してきた。これは多くの面で好ましい傾向ではある。働く人の気持ちに配慮する職場は、そうでない職場より間違いなくありがたい。
しかし、幸福感には驚くべきマイナス面もある。人間は多幸感に包まれている時、慎重さを失い、騙されやすくなり、リスクを見逃してしまう傾向があるのだ(英語論文)。
職場での幸福感が時に逆効果をもたらすという事実に加え、いわゆる「ネガティブ」な感情――怒り、困惑、恥など――が有益となることもある。研究によれば、従業員はこうした負の感情によって、深刻な問題に注意を向けるようになり、改善へと駆り立てられ、それが成功につながり、結果として意欲を高めるという(英語論文)。
リーダーは、ポジティブな態度を何よりも重視するのではなく、最高のパフォーマンスにはポジティブとネガティブ両方の感情の健全なバランスが必要だということを知らねばならない。部下にネガティブな感情を抑えるように強いれば、意欲ではなく疎外感をもたらすことになるのだ。