誤解④:素晴らしい職場は、自社の文化に合った人材だけを採用する

 企業は今では、スキルや経験だけを基準に人材を選ぶことをやめ、性格や価値観が自社の文化に合う者を採用するようになった。この方針を積極的に進めている企業の代表は、靴のネット通販企業ザッポスだ。そして他にも多くの企業が、社風に合った人材を採用することのメリットを説いている。

 この考えは直観的には大いにうなずける。全従業員が似たような態度や価値観の持ち主なら、人間関係もうまくいくだろうし、成果も上がりやすい――というのはもっともな話に思える。

 だが実は、必ずしもそうではない。過度の同質性は、パフォーマンスを下げてしまうことがあるのだ。まず、同質性は自己満足につながる。異なる考え方をぶつけてくる者がいないため、同じやり方が繰り返され、やがて停滞してしまう。同質性はまた、自信過剰にもつながる。自分たちの意見の正しさを過大評価し、意思決定に際して考え抜くことをせず、間違いを重ねていくことになる。

 ノースウェスタン大学のキャサリン・フィリップスらは2009年にこんな実験を行った(英語論文)。まず、共通点を持つ3人(大学の同じ社交クラブの仲間同士)からなるチームをいくつかつくる。そこに途中からもう1人を加えて、4人で問題の解決にあたらせる(ミステリー小説の犯人を予想させる。最初の3人で5分間話し合いをさせ、その後に4人目が加わる)。4人目は、一部のチームでは元からいた3人と同質な人(同じ社交クラブのメンバー)、他のチームでは異質な人とした。

 すると、同質なチームのほうが自分たちの判断に対する自信が強かったが、成績が良かったのは多様性のあるチームだった。異質な人の参加によって、3人の仲間たちはそれまでの考えを再検討し、情報をもっと慎重に扱うよう促されたのだ。全員が同質なグループでは、誰もそうしなかった。

 新規採用者に企業文化との相性をどの程度求めるべきかは、なかなか難しい問題だ。仕事が単純で、創造的思考がほとんど不要な場合には、労働力が同質であることが優位になる。しかしイノベーションの先頭に立とうとする組織ではそうはいかない。その場合はメンバーを異なる視点に触れさせるほうが、チームの和を重んじるよりも大きな価値を生み出せる。

誤解⑤:素晴らしい職場は、楽しいもので溢れている

 働きがいのある会社のランキング上位に挙がる会社には、従業員に娯楽や快適性を提供する豪華な設備がある。たとえばツイッターのオフィスには、ロッククライミング用の壁がある。ジンガ(米ソーシャルゲーム会社)の廊下には、古典的なアーケードゲーム(業務用ゲーム機)が並んでいる。グーグルにはボウリング場、ローラーホッケー場、砂を敷いたバレーボールのコートまである。

 リゾート風の職場にたびたびスポットが当たるのを見れば、素晴らしい職場をつくるにはオフィスを遊園地に変えなくてはならない、と思ってしまいそうだ。

 しかしそうではない。仕事で成功を収めるうえで、贅沢品は必須ではない。従業員に必要なのは、人としての基本的なニーズを満たす体験である。数十年にわたる学術研究が示してきたとおり、人間が最高のパフォーマンスを発揮するのは、自分の能力に自信を持ち、自由裁量があり、他者とつながりを感じている時なのだ(英語論文)。

 職場を素晴らしい場所にするのは、贅を尽くした設備の数ではない。従業員の感情面のニーズを満たし、最高のパフォーマンスを引き出す労働環境をつくることが肝心なのだ。

 職場をどう改善するかについて、思い込みに頼ってきた時代があまりに長く続いた。そろそろデータをしっかり見据えるべき時である。


HBR.ORG原文:5 Myths of Great Workplaces March 05, 2015


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ロン・フリードマン(Ron Friedman)
リーダーの職場改善を支援するignite80の創設者。著書にThe Best Place to Work: The Art and Science of Creating an Extraordinary Workplaceがある。