損得の感じ方には偏りがある
プロスペクト理論によると、人が感じる価値の大きさは図のような価値関数に従って変化するとされる。図の縦軸は人が感じる価値の高低を、横軸は損失か利得かという損得の方向を表している。この価値関数にはいくつかの特徴がある。その1つは、図の縦軸と横軸の交点の位置にある参照点の存在だ。人が感じる価値の大きさは、対象となる変数の大きさそのものではなく、参照点との比較によって形成される。
例えば、商品の価格が高いか安いかを消費者が判断する場合を考えてみよう。この判断に際しては、価格の絶対値が拠り所になるわけではない。ある商品の価格が700円であるとき、700円という値そのものによって割高感や割安感が形成されるのではなく、価格判断の基準となる参照点(価格の場合は参照価格と呼ばれる)との比較によって、高いか安いかが知覚される。同じ700円という価格でも、参照価格が800円の場合には安いと思われるだろうし、参照価格が600円のケースでは高いと感じられるはずだ。
図の価値関数のもう一つの特徴は、損失方向の傾きが利得方向のそれよりもかなり大きいということである。参照点から利得の方向に動いたときの価値の上昇分と、損失の方向に同じ分だけ変化したときの価値の減少分を比較すると、後者が前者を大きく上回っている。このことは、人は利得よりも損失に敏感であることを表していると同時に、利得を得るよりも損失を避けることを重視するという性向を示している。この性向が損失回避と呼ばれるものである。