本連載では、米国でDean of Deans(ディーンの中のディーン)と呼ばれたケロッグ経営大学院の名ディーン、ドン・ジェイコブスを紹介し、ケロッグ校の改革の軌跡を追う。第2回目は、ケースメソッドからの脱却について(写真:© 2015 H&K Global Connections Inc.)。
世界を席巻したハーバード・ビジネススクール(HBS)のケースメソッド
歴史的にビジネススクール教育の中心をなすのはハーバード・ビジネススクール(HBS)であり、HBSが開発したケースメソッドである。HBSのケースメソッドの本質は、意思決定を鍛えることであり、その方法は、ソクラテスメソッドという対話を重視するギリシャ以来の方法論を用いて、毎回意思決定者の立場で考えるように書かれた異なる企業の異なる局面のケースを卒業までに200本もこなすことである。
そのためにケースの書き方、ケースメソッドの教授法の訓練、ケースを書くことが業績になるDBA(Doctor of Business Administration、いわば経営管理博士)の仕組み、そして、馬蹄形の教室までが開発された。現在でも世界の多くのビジネススクールが全面的にあるいは部分的に、ケースメソッドを用いてHBSの蓄積したケースを用いて授業をしている。
HBSが確立したこの方法は、大学という場にあってアカデミックな業績中心のルールではないという秩序を作った点で画期的であった。アカデミックではオリジナルな学問的貢献をすることが至高の目的であるため、厳密な論文の書き方や、論文誌のレフェリー制度は高度に発展するが、その結果、学問はどんどん細分化しサイロ化するという宿命にある。しかし、ビジネススクールが育てたいのは経営管理者である。管理職は位が上がるごとに意思決定せねばならない問題の守備範囲が広がり、経営トップとなると360度あらゆる問題についての意思決定をしなければならない。そのことを考えると、HBSのケースメソッドは見事な発明であると言える。
ケースメソッドにおいては毎回のケースのクラスで良い発言、すなわち他の学生を論破する説得力のある発言をしないと点数はもらえない。したがって、2年間ひたすらケースで学ぶことにより、意思決定と説得力を体得するのである。つまり、意思決定は訓練であり、その繰り返しで数多くのパターンを経験することが大事なのだ。