アレン・センターでのエグゼクティブ教育

 一方、大学を出て数年のMBAだけでなく、エクゼクティブ教育の必要性を感じていたジェイコブスは、「この変化の激しい時代ではビジネスマンは一生学び続けなければならない」と考え、世界中の都市からエグゼクティブが集まり1〜4週間宿泊して朝から晩まで集中的に教育を受ける「アレン・センター」という施設を作った。教室、24時間使えるグループ学習室、そして高級ホテル並みの宿泊施設・レストランが一棟になった、ミシガン湖畔のラグーンに面した美しい施設である。

 ここのコンセプトは学生が教員から学ぶだけでなく、教員も履修者から学び、履修者もお互いから学びあう、というものである。アカデミックに優れた若手教員はビジネスの最先端の話に刺激を受け、研究テーマを見つけ、深い議論をして理論化を行う。履修するエグゼクティブは古いやり方を学ぶのではなく頭の良い若い教員から物事の考え方を学び、異業種のエグゼクティブから新しい現実を学ぶのだ。

 ケロッグはこのプログラムを繰り返す中で、エグゼクティブの要望に応え、次々と新しいカリキュラムを開発した。ジェイコブス曰く「我々が彼らを教え、彼らが我々を教えた」結果、「ある種の化学反応が起きた」のだった。すなわち、通常のMBAだけに教えていると、時代にそぐわぬ内容でも、「教育」としては何とかかたちになってしまう。しかし現役のエグゼクティブが相手だとそうはいかず、教員が最先端を一生懸命学ぶしかない。そして、一流の理論家であるほど現実を見て深く考える。それが従来のMBAに変化と質の向上をもたらしたのだ。また、今では日本でも授業アンケートは当たり前だが、ジェイコブス曰く「全米ではじめて学生に教員を評価させた」という画期的な仕組みを作っている。

 このプログラムの財務的なスキームの設計については連載第4回で詳述するが、財務的にも教員にビジネスコミュニティに求められるプログラムを開発・提供するインセンティブを、教員が所属する部署にもそれを奨励するインセンティブをうまく組み込んでいる。