オンライン教育は、HBS全体の補完に過ぎない
昨今、オンライン上でも濃密な議論ができる環境が整いつつあります。将来高いレベルの環境が整ったときでも、ひとつの場所に集まることに意味があるとお考えですか。
HBSのクラスを「サイエンスラボ」のようなものと考えてください。ラボはオンラインにすることはできず、その場所で、実際に手を動かさなければなりません。ケースメソッドは現実に起こったことの一部を切り取ったもの。人が顔を突き合わせて議論し、そこで出てくる発言が非常に重要になってくるのです。
とはいえ、HBSはテクノロジーを軽視しているわけではありません。クラスを越えたところに学びの相互作用をもたらそうと、かねてからテクノロジーを活用しています。ケースには必ず主人公がいますが、その主人公をボストンに招くことができない場合、オンラインでつなげてライブで主人公の話を聞くのです。さらに、オンライン授業で学びの相互作用をもたらす実験も重ねています。
HBSでは、新たにHBXというオンライン教育のプログラムを立ち上げています。学びの相互作用をオンラインに持ち込み、学ぶ学生の意欲が長く継続できる環境をつくるプログラムです。そのうちのひとつ「HBXコア」(HBR CORe)は、学生の満足度が非常に高くなっています。通常のオンライン教育の修了率は0.5%程度と言われますが、HBXコアは90%の修了率を誇ります。HBSでは、教育内容のつくり込みとテクノロジーをミックスする戦略に、相当な時間とリソースを割いています。
その一例として「バーチャルクラスルーム」をご紹介させてください。

HBSが誇るバーチャルクラスルーム
テレビ局のようなスタジオに、60個のモニターが並んでいます。世界中に散らばる学生がライブでつながり、教授は全員の顔が見え、かつすべての学生も全員の顔が見えるようになっています。モニター越しですが、まるでひとつの場所に集まっているかのように全員で議論ができて、場合によってはアフリカとアジアの学生がふたりで討論することも可能です。これは、世界でHBSしかやっていないシステムで、現在、企業幹部向けプログラムでテストを始めています。世界中からボストンに集まった企業幹部が2週間クラスで学び、いったん地元に戻って再びボストンに集まるのですが、その地元に帰っている間をこのバーチャルクラスルームでつなげるのです。
学生をボストンに集めるのは、学生同士の「熱量の交換」があるような気がします。バーチャルクラスルームでも、いずれそれは可能になるのでしょうか。
実際にひとつの場所に集まって生まれるものとは違います。ただ、現在世の中に存在するオンライン授業の中では、最もそこに近いという自負はあります。ひとつの場所に集まるのがベストという考えに変わりはありませんが、世界中のすべての人をクラスに集めるのは不可能です。ボストンに来られない人たちのためにも、バーチャルクラスルームで類似の経験を届けたいのです。
誤解のないように申し上げておきますが、このバーチャルクラスルームはひとつの場所に集まることをリプレイスするものではありません。あくまでも、現在のオンライン教育をリプレイスするものと考えています。先ほどご紹介したイマージョンプログラムに同時期に参加した学生が集まることは不可能です。でも、このバーチャルクラスルームを使えば、アフリカに入った学生とアジアに入った学生がリアルタイムでつながることが可能です。HBSが進めるグローバル教育のプログラムを補完するうえでも、有効なツールになるはずです。