1.働き方の変化

 数値化による業績評価システムでは、今日における業務遂行の新たなスタイルが考慮されていない。いまや12ヵ月スパンの目標など設定する人は少ない。1ヵ月や1週間単位での目標を必要とする人もいる。

 また、仕事はますますチーム単位で行われるようになり、世界各地に散らばった複数のチームに参加する人も多い。マネジャーは、部下が他の複数のチームとも関わっている場合、そのパフォーマンスを正確に把握しにくい。また部下はマネジャーの目が行き届かない、あるいは理解すらできない仕事をしていることも多い。

 要するに、年に1度実施される標準的な業績評価は、人々の働き方にはもはや妥当ではないのだ。

2.協力関係の促進

 業績評価システムを変更した企業について研究すると、ある明らかな傾向を見出すことができた。従来型のランク付けは従業員間の協力関係を妨げ、ひいては顧客重視の姿勢と機敏性を損なうということだ。

 最高ランクの評価を受けると、高い地位や昇進や昇給につながるが、学校とは異なり、仕事に尽力すれば誰もがAをもらえるわけではない。懸命に働く10人のメンバーを擁するチームのマネジャーが相対評価を強いられる場合、最高評価を付けられるのが1~2名のこともあるだろう。この結果、メンバーは報酬を求めて直接競い合い、協力関係に悪影響が生じる。我々の調査によれば、マイクロソフトがランク付けによる評価を撤廃した後には、従業員間の協力関係が飛躍的に向上した。

3.人材の獲得・維持

 企業がランク付けを撤廃するのは、上司と部下の間で能力開発について話し合う機会を、年に1~2回ではなくもっと頻繁に設けるためでもある。特にミレニアル世代(1980年頃から2000年頃に生まれた世代)は、学習とキャリア開発を強く望んでいる。

 我々が調査した30社における顕著な発見の1つは、ランク付け撤廃後に、マネジャーとチームの間でパフォーマンスについて話す機会が著しく増えていたことだ。以前は年1回だけだったものが、いまは3~4回である。コミュニケーションが増えると、マネジャーは部下の仕事の内容をより把握できるようになり、従業員エンゲージメント、能力開発、そしてより公平な報酬の実現につながる。

4.迅速な人材開発

 研究の早い段階で示された結果によると、ランク付けを撤廃した企業は、従業員の能力開発を全社的に加速できているようだ。対話の増加がその要因である。上司も部下も、年度末のランク評価を心配する必要がなくなるため、会話がより率直でオープンとなる傾向が見られる。

 デロイトが社内で分析を行ったところ、従業員とマネジャーは業績評価に年間約200万時間をかけていることがわかった。ここでの問題は、時間の多くがランク評価そのものに関する議論に割かれていたことだ。ランク付けをなくした企業の多くでは、会話の内容が、過去のパフォーマンスに関する説明から、今後の成長と能力開発へと変わっている。それが従業員の能力向上につながり、誰にとっても喜ばしい結果となっている。

 ランク付けを撤廃した企業は、実施前には不安を覚えるが、撤廃後は新たな方針を熱烈に歓迎する傾向にある。従業員はそれまでよりも不安がなくなり、エンゲージメントとパフォーマンスの向上が促される。

 従業員を数値としてではなく、1人の人間として扱うほうが優れたアプローチであることは、何も驚くことではないはずだ。とはいえ、それが明らかになったのは、ごく少数の勇敢な企業が率先して範を示したからである。

 この傾向が本当に長続きするか否かは、時を待つしかない。しかし我々は、これが大きな潮流の始まりであると強く感じている。


HBR.ORG原文:Why More and More Companies Are Ditching Performance Ratings September 08, 2015

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デイビッド・ロック(David Rock)
ニューロリーダーシップ・インスティテュートの共同創設者兼コンサルタント。著書にYour Brain at Workがある。

ベス・ジョーンズ(Beth Jones)
ニューロリーダーシップ・インスティテュートのシニアコンサルタント。業績評価を研究・支援するチームを率いている。