その結果、ウェブサイトに多くの価値観を掲載している企業ほど、財務業績がよいという傾向が見られた。また、価値観が競合他社と異なっている企業ほど、よい業績を上げていた。著者らは、こうした相関に因果関係があるかどうかは定かではないと注記しつつも、説得力ある説明を提示している。「掲げられた価値観が、有能な人材を惹きつける要因となっていること、そして、よき企業市民であるというアピールになっていることが考えられる」。人材獲得を重視している企業ほど多くの価値観を掲げる傾向が、業績との相関につながっているのかもしれない。
競合他社と異なる価値観を表明することは、なぜ業績と関係しているのだろうか。著者らの考えによれば、これはいつの時代も変わらない競争戦略の原則を反映しているのだという。すなわち、自社を差別化することが、収益性を維持する王道の1つだということだ。
これらの結果は次のことを示唆している。価値観には無視できない重要性があるということ。そして価値観の公式な表明は、自社が何者であるかを伝える有意義なメッセージになるということだ。これはHBRの読者にとって驚くべきことではないだろう。ジム・コリンズとジェリー・ポラスは、1996年の名著論文「ビジョナリー・カンパニーへの道」でこう述べている。
「企業の中核的価値観とは、組織にとって欠かせない永続的な信念である。時代を超えても変わらない少数の行動原則であり、その正当性を外部に判断してもらう必要はない。組織内の人間にとってこそ、本質的な価値と重要性を持つ。ウォルト・ディズニー・カンパニーの中核的価値観であるイマジネーションと健全性は、市場の要求に基づくものではなく、自社のためにそれらを育まなくてはならないという、創業者の信念に基づくものである」
しかしながら、今回の論文における第3の発見は、「価値観は不変でなければならない」という見解と矛盾する。2005年から2008年の間に価値観を変更した企業は、見直さなかった企業よりもROAが高かったのだ。これは短期的な財務業績を測定しただけであり、ディズニーのように不変の原則を持つ揺るぎない企業のほうが結局は勝つのだ、という意見もあるだろう。たしかにそうかもしれない。だが論文は、別の解釈を示唆している。
価値観を変更した企業は、その内容により強い独自性が見られた。差別化は優れた戦略のカギである。したがって、価値観は不変であるよりも変えるほうがよい、ということではなく、「不変の価値観は優れた戦略の代わりにはならない」というのが教訓ではないだろうか。
HBR.ORG原文:Does Stating What Your Company Stands for Affect Your Bottom Line? August 03, 2015
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ウォルター・フリック(Walter Frick)
『ハーバード・ビジネス・レビュー』のシニア・ アソシエート・エディター。