いかに力まないで集中するか
冷静の反対語は興奮です。人は一生懸命になればなるほど興奮状態に近づいてしまうものです。力むという感覚に近く、大きな仕事や絶対に成功させたい仕事はどうしても力みます。そこで冷静さを失うのです。力むことを抑えるのが難しい理由として、淡白にやり過ごすことの怖さがあります。自然体を目指して淡白になると、力を入れるべき瞬間を素通りしてしまうという怖さです。
興奮して冷静さを失う怖さと、淡白になり過ぎる怖さの間で悩みます。
かつて私はロッククライミングにのめり込んでいました。命綱となるロープを使うとはいえ、切り立った岩肌を登るのは恐怖もあり、一方で、「登ってやろう」とドーパミンも出ます。いざ挑戦して失敗するパターンは、2つありました。
1つは、恐怖心に勝てなかった時です。「こんな斜面登れるかな」という怖さが残ったまま登り始めるとやはり失敗します。途中で足が震えることすらあるほど情けない惨敗です。
もう1つは、力みすぎるパターンです。「絶対登ってやる」とテンション高く精神的にハイになって一気に挑んで惨敗するのです。これは余計な力が入り過ぎて体力を消耗してしまうことと、「やればできる」的な無謀な登り方をしてしまうからです。
成功するパターンはこの中間で、恐怖心もなく冷静さを保っている状態。どうやって登るかに意識を集中し、それのみを考え無心で岩場に向き合えた時に成功します。心拍数はむしろ低く、リラックスしている。それでいて集中しているので、登り終えた後に、どのくらいかかったのか時間の感覚がまるでありません。
仕事の意思決定もこれに似ているような気がします。非常に高いレベルで集中して、考えるべきことを考える。かといって冷静でいられる。
今回の特集では、プロゲーマーの梅原大吾さんと医学博士の石川善樹さんに対談をしていただきました。梅原さんの勝つ哲学を、石川さんが見事な対話力で引きだしてくださいました。梅原さんは勝っても負けても感情に出ない。つまり感情をコントロールできれば、結果は自然とついてくることと確信されておられます。
冷静であり、決して淡白ではない。こんな心境を維持できるスキルを身につけたいと痛感した特集でした。(編集長・岩佐文夫)